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令和2年(2020年)1月22日更新

報道発表資料

〔別紙〕

命令書詳細

1 当事者の概要

  1. 申立人X1(以下「組合」という。)は、被申立人Y1(以下「会社」という。)に雇用される従業員が主体となって昭和43年に結成された労働組合である。本件申立時の組合員数は3名である。
  2. 被申立人会社は、東京及び大阪のそれぞれに本社を構える株式会社であり、昭和21年から業界紙である○○新聞を発行している。本件申立時の従業員数は約30名である。

2 事件の概要

組合は、平成29年6月15日、会社と定期昇給を議題とする団体交渉を行った(以下「6月15日の団体交渉」という。)。しかし、組合は議題とは別の件に終始し、議題に入ることなく団体交渉は終了した。
11月29日、組合と会社とは、冬季一時金等を議題とする団体交渉を行った(以下「11月29日の団体交渉」という。)。しかし、組合はこの日も議題とは別の件に終始し、議題に入ることなく団体交渉は終了した。この団体交渉の終了間際に、会社は改めて団体交渉を行う旨を述べたが、29年冬季一時金が支給された12月22日までに団体交渉は行われなかった。
会社のマネジャー制度及びその人事については、就業規則及び労使協定により毎年2月に組合と会社とで労使協議をすることとされていたが、少なくとも29年から、労使協議は行われていなかった。
28年10月、会社は新聞を印刷する印刷所を変更し、この変更に伴い、○○新聞及びその他の特別号の印刷方法が変わった。X2委員長は、会社に対し、自身が担当し毎年1月に発行する○業界を特集した○○新聞の特別号について、紙質が悪くなったので印刷所変更前の紙質に戻してほしい旨を繰り返し要望した。会社は、その要望には応じなかったものの、同要望を踏まえ、29年1月及び30年1月に、通常よりは上質な紙を使用して同特別号を発行した。
本件は、以下の5点が争われた事案である。

  1. 6月15日の団体交渉におけるY2常務取締役及びY3取締役の発言は、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
  2. 11月29日の団体交渉における会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。
  3. 会社が11月29日の団体交渉において次回の団体交渉を約束しながら開催せず、29年冬季一時金を支給したことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか否か。
  4. 会社が30年にマネジャー制度及びその人事について就業規則に定めのある労使協議を行わなかったことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
  5. 会社が30年1月19日付○○新聞特別号に関する印刷対応について、印刷所変更前と同様の紙質に戻してほしいとするX2委員長の要望を拒否したことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるか否か。

3 主文

本件申立てを棄却する。

4 判断の要旨

  1. 6月15日の団体交渉におけるY2常務取締役及びY3取締役の発言について   
    • ア 6月15日の団体交渉において、Y2常務取締役は1)「もうやめる。やめよう。」、2)「あなたの発言とか聞いているとおかしいよ。」などと述べ、Y3取締役は3)「アホくせーよ。ほんとに。」、4)「俺の仕事を誰が取った。」、5)「組合が取った。」などと述べている。このような個々の発言だけをみると、会社が不適切な対応をしていたようにも思われる。
    • イ しかし、交渉全体をみると、冒頭、X2委員長は、議題とは関係のないY3取締役の薬物使用疑惑に関する話題について、約25分間追及し続け、その後もY3取締役が会社の経営悪化の要因の一つである旨の主張を、会社が当日の議題に戻そうとしても、約1時間にわたりし続けた。上記アの1)ないし5)等の発言は、こうしたやり取りの際にされたものである。
    • ウ 組合は、Y3取締役の薬物使用疑惑に関する話題を取り上げた理由について、経営モラルの根幹を揺るがしかねない疑惑であるため、その事実確認が不可欠であった旨を述べている。しかし、その疑惑はあいまいな情報に基づいていること及び団体交渉の議題には全く掲げられていなかったことからすると、6月15日の団体交渉において、約25分もの時間を費やして取り上げるべき問題であるとは到底いえない。
    • エ また、X2委員長が「私はY3取締役が出席するとは思っていなかったんです。」と述べるなど、組合はY3取締役の団体交渉への出席に関連して上記イのような話題を取り上げたものとみられるが、会社が議題について話を戻そうとし、必要に応じて組合の質問に対して回答をしていたにもかかわらず、組合は予定されていた議題に入ろうとせず、長時間にわたって同取締役の個人的な話題を取り上げ続けている。会社がこうした組合の対応を理解しかね、堪えかねて上記アの1)ないし5)等の発言に及んだことは、容易に推測される。
      加えて、会社の発言が団体交渉の進行を実質的に妨げたり、組合の団体交渉での発言を萎縮させたりするものであったとはいえない。
    • オ したがって、Y2常務取締役及びY3取締役の発言は、X2委員長の長時間にわたる同取締役への個人攻撃ともいえる対応に対して反射的に出たものであり、組合の弱体化を企図するものであったとはいえず、また、組合活動を妨害したものともいえないから、組合の運営に対する支配介入には当たらない。
  2. 11月29日の団体交渉における会社の対応について
    • ア 組合は、11月29日の団体交渉の議題について協議ができなかった理由として、1)会社が、会社の従業員ではない組合員X3の出席を拒否しようとしたこと、2)会社がY3取締役を団体交渉に出席させ、同取締役の薬物使用疑惑等に対する会社の考え方を明らかにしなかったこと及び3)交渉時間が1時間という短い時間に決められていたことを挙げている。
    • イ しかし、X3の出席については、団体交渉の議題が冬季一時金等会社内部の問題であることからすると、会社が、会社の従業員ではない同人の出席について説明を求めるのは無理からぬことである。加えて、これまで社外の人物が団体交渉に参加したことがなかったことなどを考慮すると、同人の出席に対する会社の反応は不自然なものとはいえず、結局は会社も同人の出席の下で交渉に応じていることをも併せ考えれば、会社の対応に問題があったとはいえない。
    • ウ X3の出席に係るやり取りの後、組合はY3取締役の退席を要求しているが、その理由として、1)同取締役が労使協議に違反した場合は退任又は退職する約束となっていること及び2)同取締役の疑惑が企業倫理に反することを挙げている。確かに、この理由1)については、組合が主張する約束の存在自体は認められるが、組合が、会社に対し、Y3取締役が具体的にどのような会社の方針や労使協定に反しているのか等について説明した事実は認められない。また、理由2)については、会社は組合に対して何十年も昔の話で現在において対処を要する問題はないと説明をしており、Y3取締役の出席が団体交渉の支障になるとみることもできない。
      それにもかかわらず、組合は大半の時間をY3取締役の団体交渉への出席を巡る話題に費やし、会社が議題について話を戻そうとしても、議題について話をすることはなかった。
    • エ また、組合は、会社が一方的に1時間という短い交渉時間を決めた旨を主張するが、組合は団体交渉開催前の段階で交渉時間に異議を唱えておらず、そもそも組合は上記ウのとおり議題に入ろうとしなかったのであるから、かかる主張は採用することができない。
    • オ 以上の事情を考慮すると、11月29日の団体交渉において冬季一時金等の議題について協議に入ることができなかった原因は、組合による団体交渉の進め方にあったといわざるを得ず、同団体交渉における会社の対応が不誠実であったということはできない。
  3. 29年冬季一時金支給について
    • ア 11月29日の団体交渉において、冬季一時金を含む議題について協議に入ることができなかった原因が組合による団体交渉の進め方にあり、会社の不誠実な対応によるものでなかったことは、上記2.で判断したとおりである。
    • イ そして、Y4代表取締役は、議題とされていた冬季一時金等の協議に入れないまま交渉予定時間が経過し、また、自身も予定が入っていたことから、冬季一時金の件については書面で回答する旨を伝えた。しかし、組合が「そんなのは交渉じゃありません。」と述べたため、Y4代表取締役は「じゃ団交やりましょう。」と応じた。このY4代表取締役の発言は、会社が議題について協議しようとしても応じず、会社が提案した書面回答も即座に拒否した組合の姿勢に鑑み、冬季一時金等の議題について協議すべく組合から改めて団体交渉の申入れがあれば、それに応じるしかないだろうと考えての対応であったと考えられる。
    • ウ しかしながら、組合は、その後、冬季一時金の支給時期が迫っている12月中旬に至ってようやく会社に対して冬季一時金に係る議題を含む団体交渉を申し入れた上、その申入れにおいては、大阪での開催を求めるのみで、その開催候補日については提示しなかった。この申入れに対し、会社は、冬季一時金の支給内容の概要を記載し、次回の団体交渉において必要な範囲で説明を行う旨及び場所は従来どおり東京本社で行う旨を伝えたが、次回の開催候補日は提示しなかった。その上で、会社は、従業員に対し、冬季一時金の支給予定日等を通知した。
      このように、会社は、次回の開催候補日の提示はしていないものの、一時金支給内容の概要をまず組合に説明するなど、組合に対して一定の配慮をしているといえる。
    • エ 以上の事情を考慮すると、会社が11月29日の団体交渉の終了段階で団体交渉を再度行う旨の発言をしていたことは認められるものの、それが冬季一時金の支給までの間に開催されなかったのは、結局のところ、組合の団体交渉の申入れが、例年の一時金の支給時期が迫る、年末の諸事多忙な時期に開催候補日を示さずにされたことに起因しているといわざるを得ず、会社が29年冬季一時金の支給前に団体交渉を行うことを避けていたとみることはできない。よって、会社が12月22日に冬季一時金を支給したことをもって、正当な理由なく団体交渉を拒否したと評価することはできない。
  4. マネジャー制度及びその人事に係る30年の労使協議について
    • ア 就業規則には、マネジャー制度及びその人事については毎年労使協議をして見直すことが定められており、29年11月29日、それを議題の一つとする団体交渉が行われたが、前記2.で判断したとおり、組合は予定されていた議題に入ろうとしなかった。
    • イ その後、組合は上記アの件について団体交渉を何度か申し入れたが、団体交渉の開催地や出席人数、交渉時間などで合意がされず、開催には至らなかった。
      会社の対応をみてみると、会社は組合の団体交渉申入れに対して具体的な交渉日時を提案するなど、マネジャー制度及びその人事に係る労使協議をしようとする姿勢を示していた。また、双方の主張の隔たりが大きい開催地について、会社は、従来は東京で行われてきたことや交渉の主要な出席者が東京にいることなどを理由に東京での開催を主張しており、このような会社の説明が一概に不合理なものであるということはできないから、合意に至らなかった原因が専ら会社の対応にあるとはいえない。
    • ウ また、会社は、労使協議が行われていない間、マネジャー制度を組合との協議なしに変更するような強硬姿勢はみせておらず、就業規則に定められた労使協議を軽視してマネジャー制度及びその人事の運営をしていたとまではいえない。
    • エ 以上の事情を考慮すると、会社が30年にマネジャー人事について労使協議を行わなかったことが、組合の存在を軽視したものとまではいえないから、組合の運営に対する支配介入には当たらない。
  5. 30年1月19日付○○新聞特別号の印刷対応について   
    • ア 組合は、X2委員長が個人的に要望していた紙質の改善に会社が応じない理由は、同委員長個人を組合と同視し、同委員長に不利益を与えるためであると主張する。
      確かに、印刷所の変更に伴い新聞の紙質が変わっているが、そもそも印刷所の変更は経費削減を主な目的としたものであり、経費が掛かる印刷方法の変更や紙質の向上に応じることができないとする会社の説明には、相応の理由があるといえる。また、会社が、X2委員長と他の従業員とで、紙質について異なる対応をしたとの疎明もない。
    • イ そして、会社は、X2委員長の紙質改善の要望を受け、○○新聞の特別号については印刷所変更前と同質ではないが、通常の紙質よりも上質なもので発行するなど、一定の配慮をしているといえる。また、Y4代表取締役は、紙質の問題が生じた場合に担当記者の責任にならないように対応する考えを示している。
    • ウ 以上の事情を考慮すると、X2委員長の個人名で出された紙質改善の要望に係る文書に対し、会社が組合宛てに回答したという一事をもって、会社が同委員長個人と組合とを同視し、それ故に会社が同委員長の要望を拒否し、組合に不利益を与える意図を持っていたと認めることはできない。むしろ会社はX2委員長の要望に一定の配慮をしており、会社の対応が組合員であるが故の不利益取扱いに当たるということはできない。

5 命令交付の経過

  1. 申立年月日
    平成30年2月19日
  2. 公益委員会議の合議
    令和元年11月19日
  3. 命令書交付日
    令和2年1月22日

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