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令和元年(2019年)10月17日更新

報道発表資料

〔別紙〕

詳細

1 今回の発見

  1. 人工神経接続システムを用いて、脳梗塞モデル動物が10分程度で自分の意思により、再び麻痺した手を動かせるようになった。
  2. 人工神経接続システムは損傷した神経経路の役割を代替することができた。
  3. 人工神経接続システムにより、脳に新しい運動の役割を付与することができた。

人工神経接続に関するイメージ画像1

図1 脳と筋肉を繋ぐ人工神経接続システム

研究グループが開発した「人工神経接続システム」は、脳の神経細胞と似たような役割をするコンピューターで、上位の神経細胞の情報を受け取り(入力)、次の細胞にその情報を伝える(出力)ように設計されている。これを利用して、脳梗塞により脳と脊髄を繋ぐ神経経路を損傷しているモデル動物の損傷部位をバイパスし、脳の信号を麻痺した筋肉に伝えた。

  • 入力
    脳表面の複数の脳領域から脳の電気信号を記録し、その記録された信号から特定の脳活動を見つけ出し、脳活動パターンを検出する。
  • 出力
    その脳活動パターンを電気刺激の周波数の変調と電気刺激の刺激強度の変調に変換し、その電気刺激を筋肉へ伝える。

人工神経接続に関するイメージ画像2

図2 人工神経接続システムによる麻痺した手の随意運動の再獲得と脳活動の適応

10分程度で脳梗塞モデル動物は人工神経接続システムに適応し、麻痺した手を自在に動かすことができるまでに回復した。その際、約25分で麻痺した手の運動を司る脳領域が小さく集中するように脳領域を超えた大規模な脳活動の適応が起こった。

人工神経接続に関するイメージ画像3

図3 人工神経接続による脳活動の柔軟な再適応

顔や肩の運動を司る脳領域が、人工神経接続を介して麻痺した手を自分の意思で動かせるようになった。また、もともと運動機能を持たない脳領域で感覚機能を持つ体性感覚野でも、同様に、麻痺した手を動かせるようになった。

人工神経接続に関するイメージ画像4

図4 人工神経接続システムによる脳への新しい運動機能の付与

人工神経接続により任意の脳領域を手の筋肉に繋ぐことで、もともとの脳領域の役割に関わらず繋がれた脳領域に新しい運動機能を付与できる。このことは、脳梗塞によって脳の一部が損傷しても、人工神経接続システムに損傷されずに残存している脳領域を繋ぐことによって、随意運動機能の再建ができる可能性を示すものである。

2 今後の展望

我々は以前の研究で、脊髄損傷モデル動物の麻痺した手について、脳と脊髄とを繋ぐ人工神経接続システムでその運動機能を再建することにも成功しています(Nishimura et al., Frontiers in Neural Circuits, 2013)。本研究では、脳自体を損傷した脳梗塞モデル動物にも、この人工神経接続システムが随意運動機能再建に有効であり、人工神経接続システムが切れてしまった神経経路の代わりになることを示すことができました。また、以前の研究で、人工神経接続システムを自由行動下で利用すると健常な動物の脳と脊髄との繋がりを強化できる(Nishimura et al., Neuron, 2013)ことも示しています。
今後は、長期間の人工神経接続システムにより、脳損傷・脊髄損傷から免れた神経の繋がりを強化し、人工神経接続システムがなくても身体を自分の意志で動かせるように回復できるかどうかを検証する必要があります。
また、今回の成果と我々のこれまでの成果は、モデル動物で人工神経接続システムの有効性を示すことができました。これを脳梗塞患者と脊髄損傷患者で検証することが次の課題です。

原論文情報

  • 論文名
    “Bypassing stroke-damaged neural pathways via a neural interface induces targeted cortical adaptation”
    (脳梗塞により損傷した神経経路を神経インターフェイスでバイパスすると脳活動を狙った状態に誘導できる)
    • 著者
      加藤健治、澤田真寛、西村幸男
    • 掲載誌
      Nature Communications
    • DOI
      10.1038/s41467-019-12647-y

本研究への支援

本研究成果は、以下の支援によって行われました。

  • 日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究戦略推進プログラム「BMIによる運動・感覚の双方向性機能再建」
  • 科学技術振興機構(JST)さきがけ 脳情報の解読と制御
  • 日本学術振興会 基盤研究S、基盤研究A

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