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報道発表資料  2019年07月23日  東京都労働委員会事務局

〔別紙〕

命令書詳細

1 当事者の概要

  1. 被申立人会社は、肩書地に本社を置き、書籍及び雑誌の出版を業とする株式会社であり、本件申立時の従業員数は5名である。
  2. 申立人組合は、平成5年12月20日に結成された、東京及び周辺地域の労働者を対象とするいわゆる合同労組である。本件申立時の組合員数は約600名である。

2 事件の概要

X2は、出版社である会社において営業に従事していたが、組合に加入した後、解雇された。その後、和解が成立し(以下「第一事件和解」という。)、平成27年10月1日、X2は、会社に復職した。しかし、28年2月、X2は適応障害と診断され、会社を休職することとなった。29年2月、X2は、会社のY2社長やY3専務らが実行不可能な業務命令を与えてX2を責め立てるなどした行為はパワーハラスメントに当たる等と主張し、Y2社長、Y3専務及び会社外1名を被告とする訴訟(損害賠償等請求事件)を提起した。
Aは、28年1月から団体交渉に会社の顧問として出席するとともに、当委員会に係属していた、組合を申立人、会社を被申立人とする不当労働行為事件(以下「第二事件」という。)の調査に会社側補佐人として出席していた。28年9月10日、会社は、Aを著者とする『中小企業がユニオンに潰される日』(以下「本件書籍」という。)を出版した。本件書籍では、組合について批判的な主張が記載されている。
10月から11月にかけて、会社は、X2に対し、組合を通さずに直接連絡しようと試み、組合はこれに抗議していた。その一方、組合と会社とは、9月30日に組合が申し入れていた団体交渉の開催条件につき書面でのやり取りを行っていたが、開催場所につき合意に至らないまま開催日時を迎え、結局、団体交渉は開催されなかった。12月7日、会社は、組合に対し、「今回の団体交渉における交渉は打ち切りとせざるを得ない」と通知した。
本件は、1)組合の28年9月30日付団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点1)、2)会社が、28年9月10日付けでA著『中小企業がユニオンに潰される日』(本件書籍)を出版したことは、組合運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)がそれぞれ争われた事案である。

3 主文の要旨

  1. 文書交付
    要旨:平成28年9月10日付けでA著『中小企業がユニオンに潰される日』を出版したことが不当労働行為と認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないように留意すること。
  2. 履行報告
  3. その余の申立ての棄却

4 判断の要旨

  1. 組合の28年9月30日付団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か(争点1)
    • ア 従前、団体交渉は会社会議室で開催されてきたところ、この間、開催場所について労使で主張が対立したことはなかった。組合は、本件開催条件で「貴社内」を含む開催場所を提案していたところ、会社が「当社」にて行う旨を通知した直後の11月9日にこれを覆したことも踏まえると、開催場所を変更するに当たっては、組合から相応の説明があってしかるべきものである。
      この点、組合の対応は開催場所の変更に関する説明として不十分なものであったといわざるを得ず、開催場所について合意できなかった原因が会社の対応のみにあるということはできない。
    • イ 組合の平成28年9月30日付団体交渉申入れに対する会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるとまではいえない。
  2. 会社が、28年9月10日付けでA著『中小企業がユニオンに潰される日』(本件書籍)を出版したことは、組合の運営に対する支配介入に当たるか否か(争点2)
    • ア 使用者の行為に当たるか否か
      会社は、28年1月頃から、著者であるAに対し、第三者非開示の対象となっていた第一事件和解の内容を伝え、組合との団体交渉や第二事件の審査手続への出席を認めるなど、本件書籍執筆のための取材機会を提供した。
      また、Y2社長は、団体交渉において本件書籍に掲載する写真を撮影するなど、自らも本件書籍のための取材活動を行っている。
      このように会社は、Aの本件書籍における記載内容を認識し、これに積極的に協力するなど深く関与していたのであるから、本件書籍の出版行為は、その記載内容も含め、使用者である会社の言動であると認められる。
    • イ 本件書籍を出版したことが組合の運営に対する支配介入に当たるか否か
      • (ア)出版に至る経緯について
        1. Y2社長は、名簿を利用しての要請書送付や第二事件の申立てなどの組合活動に対する嫌悪を抱いていた。そのため、Y2社長は、遅くとも27年11月26日頃には、本件書籍又はこれに類する書籍の出版構想を持つなど、組合に対する対決姿勢を固め、自社誌『JAPANISM』や自社書籍を通じて組合を批判していくこととした。
          会社としては、本件書籍の出版を通して、組合及び合同労組一般を批判ないし非難する世論を喚起したいとの意図を有していたことが認められる。
        2. 27年11月頃から、Y2社長らは、X2に対し、社内における言動として組合に対する誹謗中傷を日常的に行っていたところ、同時期は会社が本件書籍の出版準備を開始した時期とおおむね一致している。
        3. 28年9月に会社が本件書籍を出版した時点において、組合と会社との対立関係は激しく、緊張関係はなお継続していた。
        4. 会社は、少なくとも10月26日までの間、それまでは応じていた組合からの団体交渉開催を遅延させようとする一方、本件書籍の出版直後から、X2個人に対して、組合との団体交渉では協議に応じなかった退職前提の和解を呼び水として直接和解交渉を持ちかけるという、組合からの切り崩し的な手法を用いている。これらの手法は、本件書籍における組合活動を誹謗中傷するとともに、組合とX2との間の信頼関係を毀損する記述(下記(イ))と軌を一にするということができる。
      • (イ)本件書籍の内容について
        本件書籍中には、組合と会社との労使紛争を取り上げている第一章を中心として、次のとおり、組合を誹謗中傷する表現、組合員であるX2を直接的に威嚇する表現、組合とX2との間の信頼関係を毀損する表現等組合とX2の組合活動に支障や萎縮を生じさせる表現が複数存在する。
        1. 「はじめに」
          「はじめに」の節では、組合(X1)を「ユニオン」と定義した上で、ユニオンは経営者から手数料を持っていく、経営者だけではなく非組合員も不幸にしてしまう、経営者がユニオンに食い物にされる、潜り込んで労働争議を自ら仕掛けるケースもあるのではないか、との記述がある(別掲第2項)。
          上記記述は、読者に、組合は、労働争議という手段で企業から金銭を取得して企業を食い物にしており、会社を不幸にする存在であるとの印象を与え、組合を誹謗中傷するものであり、非組合員に対して組合への加入を躊躇させるなど組合の組合活動に支障を生じさせるおそれのある表現である。
        2. 「第一章 新しい労組・ユニオン」
          • a 第一章の「ユニオンの介入の実態」の節では、組合及びX2と会社との労使紛争について、その具体的事実経過を引用しつつ、主に会社側の視点から論評されているところ、紛争の当事者としてX2の氏名及び顔入り写真が掲載されている(別掲第1項)。
            一般に、使用者が、自身を当事者とする労使紛争について事実を摘示しつつ、労働者及び労働組合を批判すること自体は否定されるものではない。
            しかし、同部分の記述は、X2の働きぶりなどX2個人の名誉やプライバシーに影響を与え得る表現行為であるにもかかわらず、匿名化したり写真を加工したりすることなく、組合員個人の氏名及び顔入り写真をそのまま掲載し、かつ、マスメディアである書籍を書店やECサイトに一般流通させるという大々的なものであり、X2個人の名誉やプライバシーに何ら配慮がなされていない点で手段の相当性を明らかに欠いたものである。後記3.のとおり表紙にX2を模したキャラクターが描かれていること、組合と会社との労使紛争が継続している中で出版されたこと、本件書籍では組合が提案していた退職前提の金銭和解には応じてはならないと主張されていることを併せ鑑みると、X2の氏名及び顔入り写真が掲載されている同部分の記述は、組合活動を理由として組合員であるX2を直接的に威嚇し、組合活動によっては会社との労使紛争を解決することはできないとのメッセージを伝えるものであり、組合及びX2の組合活動を委縮させるものといわざるを得ない。
          • b 同じく第一章の「ユニオン介入の実態」の節において、28年1月15日に行われた団体交渉における組合側交渉員の発言を部分的に引用しつつ、「ユニオンが周りの労働者のことを考えておらず、非組合員を下に見ている」と記述されている(別掲第3項)。
            しかし、本件書籍に引用されている団体交渉において、組合側交渉員は、第一事件和解協定書の解釈及び労働協約一般に関する意見を述べたにすぎず、組合側交渉員の発言からは、組合が非組合員を見下しているとはいえない。
            上記記述は、組合が組合員のことしか考えず非組合員を下に見ているとの印象を与え、組合を誹謗中傷するものであり、組合ないし組合員と非組合員との対立をあおることにより、組合及びX2の組合活動に支障を生じさせるおそれのある表現である。
          • c また、その直後の部分でも、組合側交渉員の団体交渉における発言を部分的に引用した上で、「明らかに組合が経営権まで最終的に狙っている証拠である。会社の乗っ取りを考えているのかと疑いたくなる。」と記述されている(別掲第3項)。
            しかし、当時の団体交渉でのやり取りにおいて、従業員が組合に加入することにより会社が潰れてしまうと述べたY2社長らの発言に対し、組合のX3委員長は、そのような懸念は不要であることを説得するために、組合として会社の事業運営に協力する姿勢を示したにとどまるのであり、組合が会社の経営権取得を狙っていたなどとはいえない。
            上記記述は、組合が、組合員の労働条件の向上という目的を超えて、会社の乗っ取りなどあたかも不当な行為をしているかのような印象を与え、組合を誹謗中傷するものであり、非組合員に対して組合への加入を躊躇させるなど、組合の組合活動に支障を生じさせるおそれのある表現である。
          • d X3委員長が、復職を希望するX2を説得し、会社を退職することを勧めた旨を団体交渉で発言したことについては、「本来退職等は本人と会社の話し合いで決めるべき事項であり、労働組合が本人を説得するのは筋違いである。本来の労働組合の役割は雇用を守ることである。ユニオンは、自分たちの組織のことしか考えていない。即ち、「会社にいかにお金を支払わせ、ユニオンに還元するか」この1点であると思われる。」と記述されている(別掲第4項)。
            上記記述の趣旨は、組合が、解決金を組合自身に還元することしか考えておらず、自らの組織的利益のために、組合員に不当な働き掛けを行っているというものである。
            本件書籍にはユニオンは解決金のうち一定の額を味方であるはずの労働者からあらゆる名目で受け取っているとの記述があることを併せ鑑みると、上記記述は、組合が、組織のことだけを考え、組合員の利益を不当に搾取しているとの印象を与え、組合を誹謗中傷するものであり、組合の運営に支障を生じさせるおそれがあるだけではなく、組合と組合員であるX2との信頼関係を毀損する表現でもある。
        3. 表紙
          本件書籍の表紙には、X2を含む一般読者をして、組合(X1)を想起させる「○○○○○○○○」と記載された横断幕の下、X3委員長やX2ら組合員を模したキャラクターと、一万円札が舞い散る様子がイラストとして描かれている(別掲第5項)。
          本件書籍の題が「中小企業がユニオンに潰される日」であること及び第一章の記述も踏まえると、上記イラストは、組合及び組合員であるX2が、会社から不当に金銭を取得し、中小企業を潰しにかかっているかのような印象を読者に与えるものである。
          上記イラストは、組合及びX2を誹謗中傷するだけではなく、組合活動を理由として組合員であるX2を直接的に威嚇するものであり、組合及びX2の組合活動に支障や萎縮を生じさせる表現である。
      • (ウ)まとめ
        本件書籍を出版した時点は、組合と会社との間は極めて緊迫した労使関係にあったものである。そして、本件書籍の出版準備を行っていた時期に、会社が、X2に対し、組合に対する誹謗中傷を繰り返していたこと、本件書籍出版後に会社が組合の頭越しにX2に対して直接和解の交渉を働き掛けていたこと等も踏まえると、この極めて緊迫した労使関係下において、会社が、組合とX2の組合活動に支障や萎縮を生じさせる別掲各記述部分がある本件書籍を出版したことは、組合の運営に支配介入したものといわざるを得ない。
        以上のとおり、会社が、平成28年9月10日付けで、別掲各記述部分がある本件書籍を出版したことは、組合の運営に対する支配介入に当たる。
    • ウ 救済方法について
      1)本件書籍は、第二章から第六章までの記述が全体の約7割を占めているところ、第二章以降の部分については、組合を含めた合同労組一般や労働情勢一般に関する論評など、組合と会社との労使紛争とは直接関係がない記述が大半を占めていること、2)本件結審日時点において、申立人組合員である現役の会社従業員は存在しないこと等、本件における諸事情に鑑み、本件の救済としては、主文の限度で命ずるのが相当である。

別掲

  1. 38ページの組合員X2の顔入り写真及び「団交に参加したX2氏」の説明文並びに42ページから45ページまでの「X2」及び「X2」の記載
  2. 「ユニオンは、経営者が身を削っていることを気にせずしっかりと手数料をもっていくようである」、「経営者だけでなく非組合員も不幸にしてしまうような実態を世に知らしめるべきだと感じた。」、「このままだと何も知らない経営者がユニオンに食い物にされると考えた。ユニオンは常に労働争議という獲物を狙っている。最近は潜り込み自ら仕掛けるケースもあるのではないか。」(3ページ1行目から2行目まで、5行目から6行目まで、9行目から10行目まで)
  3. 「このやりとりは興味深い。なぜなら、ユニオンが周りの労働者のことを考えておらず、非組合員を下に見ていると捉えてよいからだ。普通なら非組合員も含めてとなるはずである。ユニオンの馬脚が現れたと言って良い。」、「『社員が全員労働組合に入れば会社立てなおしますよ。』という発言は、明らかに組合が経営権まで最終的に狙っている証拠である。会社の乗っ取りを考えているのかと疑いたくなる。」(37ページ12行目から38ページ1行目まで、38ページ4行目から6行目まで)
  4. 「本来退職等は本人と会社の話し合いで決めるべき事項であり、労働組合が本人を説得するのは筋違いである。本来の労働組合の役割は雇用を守ることである。ユニオンは、自分たちの組織のことしか考えていない。即ち、「会社にいかにお金を支払わせ、ユニオンに還元するか」この1点であると思われる。ここが既存の労働組合とユニオンの決定的な違いであると考えられる。」(39ページ12行目から40ページ3行目まで)
  5. 本件書籍の表紙のうち、申立人組合及び組合員を模して描いたイラスト(「○○○○○○○○」と記載された白の横断幕の下、X3委員長やX2ら組合員3名を模したキャラクターと、一万円札が舞い散る様子が描かれたイラスト)

5 命令書交付の経過

  1. 申立年月日
    平成29年1月24日(平成29年不第10号)
    平成29年1月27日(平成29年不第12号)
  2. 公益委員会議の合議
    令和元年6月18日
  3. 命令書交付日
    令和元年7月23日

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