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報道発表資料  2018年04月10日  労働委員会事務局

〔別紙〕

命令書詳細

1 当事者の概要

  1. 申立人組合は、平成24年4月に結成され、主に中小企業の労働者が、企業の枠を越えて個人で加盟している、いわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員数は約300名である。
  2. 被申立人会社は、神奈川県横浜市に本社を置き、ビル管理を業とする株式会社である。

2 事件の概要

26年4月、Aは、会社に入社した。29年5月14日、Z1ビルの管理業務に従事していたAは、Z2ビル(会社がZ1ビルと同じく管理を請け負う別のビル)の駐車場で、紙袋に入ったワイン3本を拾い、自らのロッカーに入れた。しかし、その後、そのワインが忘れ物であったことが判明した。
5月16日、Aは、そのワインを返したが、会社は、Aに対し、自宅待機を命じた。Aは、会社に対し、6月27日付けで自宅待機中の未払賃金を請求したが、会社はこれに応じなかった。
7月20日、Aは組合に加入し、組合は、会社に対し、Aの復職、未払賃金の支払等を求めて団体交渉を申し入れた。この申入書には、会社が団体交渉を拒否する場合は、ビラ配り、街頭宣伝行動、親会社・主要取引銀行・主要顧客や監督官庁への要請行動等に取り組む準備があるとの記載(以下「本件記載」という。)があった。
会社は、7月21日付回答書で、本件記載は恐喝であり、実行した場合は法的措置を執ること、会社に賃金の支払義務はないこと、Aの行為は窃盗であり、退職届を提出しない場合、懲戒手続を執り解雇すること、団体交渉に応ずる義務も必要もないので申入れは拒否すること、Aの退職に係る事務手続であれば打合せに応ずる用意はあること等を回答した。
本件は、1)組合が29年7月20日付けで申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否及び支配介入にそれぞれ当たるか否か(争点1)、2)会社が、29年7月21日付回答書の中で、本件記載が恐喝であり、実行した場合、警察への通報を含め法的措置を執るとしたこと及びAが退職届を提出しない場合、懲戒手続を執り解雇すると言明したことが、それぞれ組合活動に対する支配介入に当たるか否か(争点2)が争われた事案である。

3 主文

団体交渉の応諾及び文書交付(一部救済命令)

4 判断の要旨

  1. 組合が29年7月20日付けで申し入れた団体交渉に会社が応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否及び支配介入にそれぞれ当たるか否か(争点1)   
    • 1)団体交渉拒否に係る判断<救済>
      組合が7月20日付けで団体交渉を申し入れたのに対し、会社がこれに応じていないところ、下記会社の主張は、いずれも団体交渉を拒否する正当な理由とは認められないから、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
      ア 会社は、組合が正当な組合活動の範囲を逸脱した情宣活動について言及したことが、会社が組合の主張及び要求を全て認めるよう強要するものであるから正当な団体交渉の申入れではないと主張する。
      しかし、組合が記載した情宣活動は直ちに違法と判断されるような内容のものではなく、しかも、いまだ実行されてもいなかった。また、そもそも、本件記載は、団体交渉の「申し入れを拒否する場合は」と書かれており、会社が組合の主張や要求を全て認めなければ、組合が本件記載の行為を実行すると理解することもできない。
      したがって、会社の主張は、団体交渉を拒否する正当な理由とはなり得ないものであり、採用することができない。
      イ 会社は、退職についての事務手続で必要があれば、本人を含め二、三名を限度にして打合せに応ずる用意はあると回答したことをもって、組合が正常な態様における交渉を行うのであれば交渉の席に着く用意はあった旨を通知したと主張している。
      しかし、この記載は、Aの退職に係る事務手続についての打合せに応ずる旨を表明したにすぎないから、この通知をもって、会社に、同人の復職等を求める組合との団体交渉の席に着く用意があったと評価することはできない。
      ウ 会社は、現に、組合が社前でビラ配り等を行ったことや、会社代表者の自宅近隣の住宅にビラを投げ込んだことを主張しているが、これらは、会社が組合の団体交渉申入れを拒否したことへの抗議行為にすぎず、団体交渉を拒否する正当な理由となるものではない。
    • 2)支配介入に係る判断<棄却>
      会社は、Aが、ごみ箱内にあったわけでもないワインを拾得したことについて報告や引継ぎも行わず、自身の専用ロッカーに入れていたこと等から、同人によるワインの拾得が窃盗ないし横領に当たることが明白であると考えたことに加え、同人も会社の処分に従うと申し出て退職の意思を表示したと判断していたことから、もはや組合との団体交渉により復職に向けて交渉する段階にはないと考え、7月21日付回答書に至ったとみるのが相当である。そして、組合も、それ以上に会社に団体交渉を働きかけることなく、同回答書の受領後直ちに本件不当労働行為救済申立てを提起していることからすると、この回答が組合の活動を制限し、組合の運営を阻害し弱体化させるものであったとまでは認めることはできない。
      したがって、会社が団体交渉に応じなかったことが支配介入に当たるとまではいえない。
  2. 会社が、1)29年7月21日付回答書の中で、本件記載が恐喝であり、実行した場合、警察への通報を含め法的措置を執るとしたこと及び2)Aが退職届を提出しない場合、懲戒手続を執り解雇すると言明したことが、それぞれ組合活動に対する支配介入に当たるか否か(争点2)<棄却>
    以下のとおり、組合の主張は採用することができず、いずれも支配介入に当たるとはいえない。   
    • 1)「インターネットを活用した本件の社会化」や「親会社・主要取引銀行・主要顧客への要請行動」などの本件記載の内容が、それまで組合との労使関係のなかった会社が初めて受けた団体交渉の申入書に記載されたものであったことからすると、会社がその内容を不穏当なものであると受け止めたのも無理からぬことであったといわざるを得ない。そうすると、7月21日付回答書は、会社が、過激な情宣活動等により会社の事業に大きな影響が出るとの危惧を抱き、過剰な記載をするに至ったものとみるべきであり、この記載をもって、殊更に組合を誹謗したり、正当な組合活動を制約したりするものとみるのは相当ではない。
    • 2)会社は、ワインの持ち主の友人である顧客先のビルオーナーの立会いの下に検証した監視カメラの映像により、前記⑴2)のとおり、Aによるワインの拾得が窃盗ないし横領に当たることは明白であると判断し、ビルオーナーと会社の恩情により、Aを刑事処分に付すことなく、自主退職の機会を与えたとの意識の下に、自主退職しない場合には懲戒解雇を行う所存である旨の会社の姿勢を示したものとみるべきであり、それ以上に、組合の団体交渉権を無視ないし軽視したものとみることはできない。

5 命令交付の経過

  1. 申立年月日
    平成29年7月25日
  2. 公益委員会議の合議
    平成30年3月6日
  3. 命令交付日
    平成30年4月10日

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