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報道発表資料  2018年01月25日  東京都労働委員会事務局

【別紙】

命令書の詳細

1 当事者の概要

  1. 被申立人会社は、IT関係の機械製造等を行う株式会社で、本件申立時の会社の従業員数は約40名である。
  2. 申立人組合は、平成22年、申立外組合であるX2から脱退した組合員らによって結成された、いわゆる合同労組で、本件申立時の組合員数は約150名である。組合は、結成当初は、「X2」と称していたが、26年11月に現在の名称に変更した。

2 事件の概要

27年8月26日、会社は、Aに対し、定年退職後の再雇用労働条件を提示した。
9月2日、Aは、組合に加入し、同月7日及び9日、組合と会社との間で団体交渉が行われ、組合は、再雇用賃金が19%減額された根拠の説明を繰り返し要求したが、会社は、20%下げてでも65歳まで再雇用していくということだ、何も再提案することはないなどと回答した。
9月9日、組合は、会社に対し、「1)Aは、会社から提示された契約書内容に合意する。2)会社とAは同契約書に署名押印する。」と記載した文書を郵送した。
9月10日、Aは、「再雇用嘱託労働契約書」に署名捺印して会社に提出した。
同日、組合は、会社に対し、同月9日付文書には3項が抜けていたとして、「3)Aの今後の労働条件については、『再雇用嘱託労働契約書』の内容も含め、現在労使間で交渉中であり、正式な労働条件については労使間での合意をもって決定する。」と記載した文書(以下「本件文書」という。)をファクスで送付した。
9月11日、会社は、出社してきたAに対し、本件文書がファクスで送られて来たのでAとの契約は不成立であることなどを述べて、同人の就労を拒否した。
その後、10月2日、11月12日及び12月10日にも団体交渉が行われたが、会社はAを再雇用しなかった。
一連の団体交渉において、会社は、組合の交渉担当者に対し、「じゃそろそろ引退じゃないですか。」と述べたり、組合が当事者である他の不当労働行為事件や裁判事案に言及したり、組合の名称問題に介入する発言を行うなどした。
11月4日、会社は、池袋公共職業安定所に、離職理由欄に「定年後の継続雇用を希望していなかった。」と記載したAの離職証明書を提出し、同日、Aに離職票を交付した。その結果、Aの27年度の国民健康保険税には、倒産・解雇などによる離職をした人(特定受給資格者)に対する軽減措置が適用されず、273,600円となり、措置を受ける場合の96,200円に比べて177,400円高額となった。また、Aの雇用保険の基本手当の所定給付日数は、会社都合により継続雇用されなかった場合の240日ではなく、150日となった。
本件は、以下の点が争われた事案である。

  1. 会社が、Aを、27年9月10日の定年退職後再雇用しなかったこと、離職票の離職理由を「定年後の継続雇用を希望していなかった。」としたこと、同票の交付を2か月近く遅らせたこと等は、同人が組合員であること、又は労働組合の正当な行為をしたこと故の不利益取扱いに当たるか否か。
  2. 会社の、一連の団体交渉における対応は、不誠実な団体交渉に当たるか否か。
  3. 会社が、27年10月2日開催の団体交渉の席で、組合側出席者に対し、もう組合を引退したらどうかなどと発言したこと、また、会社が、同年12月10日開催の団体交渉の席で、組合が当事者となった他の不当労働行為事件や裁判事案に言及したこと等は、組合運営に対する支配介入に当たるか否か。

3 主文(要旨)

  1. 会社は、Aを、27年9月10日に定年となった後、再雇用したものとして取り扱い、定年の翌日以降再雇用されたならば支払われるはずであった賃金相当額を支払わなければならない。
  2. 会社は、組合が、Aの定年退職後再雇用の賃金を含む労働条件に関する団体交渉を申し入れたときは、これに誠実に応じなければならない。
  3. 文書交付及び掲示(1)Aを定年退職後再雇用しなかったこと、2)5回の団体交渉における対応が不当労働行為であることの確認)
  4. 履行報告
  5. その余の申立ての棄却

4 判断の要旨

(1) 団体交渉について

  1. 組合は、第1回団体交渉において、会社の提示するAの再雇用労働条件は、規定出勤時(出勤日数が定年前の年間出勤日数の5分の5)の再雇用賃金が、定年退職前より19%下がって、出勤日数が5分の3になるものであり、収入が半減し、生活が苦しくなるとして、会社に対し、条件の再考と、上記減額の根拠の説明を要求した。会社の提示する条件に同意するか否かを判断するに当たって減額の根拠を知ることは、組合にとって極めて重要であったといえる。
    これに対し、会社は、規定出勤時の再雇用賃金を20%下げてでも、改正高年法を守って、65歳まで再雇用していくと回答するのみであった。
    これを受けて、組合が、決算書の提示を求めるなどした上で、改めて減額の根拠を示すよう求めたところ、会社は、「失礼かもしれないですけど、くどいです。」と述べ、政府の方針により65歳まで再雇用するように余儀なくさせられたので、永続性のある企業として維持するために20%ぐらい下げさせてほしいとの回答に終始した。
    さらに、第1回団体交渉後、組合が、「団体交渉申入書」で、改めて、19%減額した考え方を示すよう求めても、会社がこれに応えた事実は認められない。
    結局、会社は、65歳までの再雇用を維持するために、規定出勤時の再雇用賃金を減額すると説明するだけで、減額の幅を19%とした理由やその妥当性等について何ら示さないまま、9月11日までに、Aの再雇用労働条件について会社が再提案することはないとの趣旨の回答を繰り返し、第2回団体交渉でも、8月26日に会社が同人に提示した「再雇用嘱託労働契約書」に署名捺印して9月10日までに提出しないと籍がなくなること、会社が提示した条件で合意するかしないかであること、会社が提示した条件以上の条件は今出せないことを回答するなど、具体的な根拠を説明することなく、会社が提示した条件に固執し続けたことが認められる。
    加えて、会社は、9月10日付「ご連絡」で、Aの再雇用労働条件について今後協議していく前提で契約締結をすることはできない旨を明確にし、第3回ないし第5回の団体交渉でも同様の回答を繰り返した。
    以上のとおり、会社は、Aの再雇用労働条件について、自らの条件を提示するのみで、一切譲歩しない姿勢で交渉に臨んでおり、それにもかかわらず、自らの提案の根拠や妥当性について、組合の理解と納得を得るよう説明する努力を行っていないのであるから、会社には、同人の再雇用労働条件について、組合と実質的な交渉を行う意思がなかったものとみざるを得ない。
  2. また、一連の団体交渉においては、会社が、組合の交渉担当者を「大御所」と呼び、「じゃそろそろ引退じゃないですか。」、「いや、悠々自適で結構なことだなと。」と述べたり、組合が過去に当委員会に申し立て、同委員会で棄却の判断が出た件に言及し、「中労委でも残念だったみたいですけどね。」、「今度はあれですか、東京地裁ですかねえ。」と述べたり、「X2っていうのは、別の組合じゃないんですか。」、「そんなに名称にこだわる意味が分からない。」と述べるなど、殊更に組合を挑発し、本件と関係のない不用意な発言をした事実が認められる。
    会社は、一連の団体交渉においては、会社が何か発言しようとしても、ことごとく組合の罵声により遮られ、組合は、およそAの再雇用労働条件について真摯に話し合おうという態度ではなかったと主張する。
    確かに、特に第1回団体交渉において、会社の発言の途中で組合が発言し、会社が、遮られると話の趣旨が変わってしまうので黙ってほしい旨の発言を繰り返した事実は認められる。しかしながら、会社は、上記1)のとおり、Aの再雇用及びその労働条件に関する会社の考えを明確に述べているから、組合が遮ったが故に、会社が自己の考えを説明できなかったとまでいうことはできない。
    また、上記のとおり、会社の団体交渉における態度についても、多分に問題があったといわざるを得ず、組合の態度のみを責めるのは相当ではない。
    以上からすると、組合と実質的な交渉を行う意思なく、組合を挑発し、本件と関係のない不用意な発言をした点において、使用者として、組合を納得させるべく、説明を尽くして、真摯に対応していたものと認めることはできず、会社の対応は、不誠実な団体交渉に当たるといわざるを得ない。
  3. 会社は、組合の、Aの再雇用労働条件に関する要求に対し、働いていない日については兼業を認めるという趣旨の対案を文書で回答したから、組合の要求に応えていると主張するが、上記のとおり、そもそも会社は、同人に提示した再雇用労働条件の根拠や妥当性について説明を尽くしているとはいえず、この点をもって、会社が合意の成立に向けて真摯に努力していたと評価することはできない。

(2) Aに対する不利益取扱いについて

  1. 定年退職後再雇用の拒否について
    • ア 前記(1) で判断したとおり、会社は、Aの再雇用労働条件について、組合との間で実質的な交渉を行わないまま、会社の提示した条件に固執し続け、再雇用契約の開始日を迎えても、暫定的に再雇用契約を締結した上で条件について組合と継続協議する旨の提案も拒否したものである。組合が、会社の提示するAの再雇用労働条件は、正社員当時と比べて大幅に低下しており、生活に困窮する旨を再三述べていることからすれば、その根拠の提示を求めて継続協議を要求するのは当然の対応であるというべきである。それにもかかわらず、会社が、継続協議すら拒否したのは、結局、Aの再雇用労働条件について組合と実質的な交渉を行うことを嫌い、組合が会社の提案を無条件で受け入れなかったために、同人と再雇用契約自体を締結しないという不利益な取扱いをしたものといわざるを得ない。
      そうすると、会社がAを再雇用しなかったのは、同人が組合を通して労働条件の向上を図ろうとしたためであるというほかはなく、それは、同人が労働組合の正当な行為をしたこと故の不利益取扱いに当たるというべきである。
    • イ 会社は、(ア)Aを再雇用しなかったのは、同人が契約締結の意思を表明したとしても、その後、組合が同人の代理人として、本件文書によってそれを打ち消し、結果として同人が、会社が申し込んだ再雇用を拒否したのであるから、契約法理上、当然であること、(イ)組合の意向を無視して同人の意向を実現させることは支配介入となり得る旨を主張する。
      しかしながら、上記アのとおり、会社は、組合との交渉を実質的に拒絶し、結果としてAを再雇用しなかったのであるから、このような会社の対応は、同人の再雇用契約が成立しているか否かにかかわらず、不当労働行為に当たるというべきであり、会社の主張はいずれも採用することができない。
  2. 離職票の離職理由について
    会社は、離職票の離職理由を「定年後の継続雇用を希望していなかった。」としたのは、Aの再雇用労働条件について労使間で合意を見なかったためであると主張するが、同人が再雇用を希望していたことは明らかであり、会社がその希望を容れなかったことが不当労働行為に当たることは、上記1.の判断のとおりであるから、会社の主張は採用することができない。
    しかしながら、会社は、飯田橋公共職業安定所に、記載内容について相談するなどしており、上記の記載によって、経済上の不利益をAに与えようとする認識が会社にあったと認めるに足りる具体的事実は見当たらないから、会社が離職票の離職理由を上記のようにしたことは、不当労働行為に当たるとまではいうことができない。
  3. 離職票の交付の遅れについて
    組合は、会社が意図的に離職票の交付を遅らせたために、Aが雇用保険の手続を行うことができず、同人に不利益が生じたと主張する。
    確かに、会社は、本来退職日の翌日から起算して10日以内に、離職証明書等を公共職業安定所に提出すべきところ、Aの退職日から2か月近く遅れて同証明書を提出していることが認められる。
    しかし、9月11日以降、Aの雇用の存在について、労使間で継続して交渉がなされており、組合及び同人が離職に納得していなかったことは明らかである上に、その間、組合及び同人は、離職票の交付を会社に求めていなかったのであるから、こうした事情から、離職証明書を公共職業安定所に提出しなかった会社の対応を責めることはできないというべきである。
    また、離職票の交付を遅らせることによって、経済上の不利益をAに与えようとする認識が会社にあったと認めるに足りる具体的事実は見当たらない。
    以上のことから、会社が、離職票の交付を2か月近く遅らせたことは、不当労働行為に当たるとまではいうことができない。

(3) 組合運営に関する発言について

  1. 第3回団体交渉における会社の、「じゃそろそろ引退じゃないですか。」などの発言が、殊更に組合を挑発するものであり、不誠実な対応に当たることは、既に判断したとおりである。
    しかし、会社は、これらの発言の直後に、組合から抗議を受け、同発言を撤回し、謝罪している事実が認められるし、同発言は、団体交渉の応酬の中でのその場限りのやり取りであるから、同発言が、組合運営に対する支配介入に当たるとまで評価することはできない。
  2. 第5回団体交渉における会社の、組合が当事者である他の不当労働行為事件に言及する発言や、組合の名称問題に介入する発言が、殊更に組合を挑発するものであり、不誠実な対応に当たることも、既に判断したとおりである。
    しかし、これらの発言は、団体交渉の応酬の中でのその場限りのやり取りであるし、内容も、特段事実を歪曲したものでないから、同発言が、組合運営に対する支配介入に当たるとまで評価することはできない。

5 命令交付の経過

  1. 申立年月日
    平成28年2月15日
  2. 公益委員会議の合議
    平成29年12月19日
  3. 命令書交付日
    平成30年1月25日

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