ここから本文です。

報道発表資料  2016年4月20日  福祉保健局

てんかん難治化の仕組みを解明
側頭葉てんかんの難治化を防ぐ新たな創薬標的を発見

 (公財)東京都医学総合研究所・シナプス可塑性プロジェクトの島田忠之主席研究員と山形要人副参事研究員は、てんかんの難治化に関わる病態メカニズムの一端を解明しました。側頭葉てんかん患者では発作の焦点である海馬の神経細胞が形態変化を起こし、軸索と言う神経突起が枝分かれすることが知られています。この過剰な分枝が海馬神経の接続異常を引き起し、てんかん難治化につながると考えられています。このメカニズムとして、てんかん発作により増加するneuritin(ニューリティン)というタンパク質が、FGF受容体という別の蛋白質と結合することにより軸索の分枝を促し、てんかんを悪化させることを今回明らかにしました。Neuritinを持たない動物では軸索の異常な分枝形成が少なく、てんかんの悪化が緩やかになることも見出しました。このメカニズムは、従来の抗てんかん薬の作用メカニズムとは全く異なるため、新しい抗てんかん薬の開発につながることが期待されます。
 この研究は富山大学・吉田知之准教授との共同研究です。
 この研究成果は、米国科学誌「The Journal of Neuroscience(ジャーナルオブニューロサイエンス)」の4月20日付(米国東部時間)に掲載されました。

画像

1.研究の背景

 てんかんは、脳の神経細胞が過剰興奮する慢性の病気であり、日本人の約1%が罹患していると言われています。このうち約70%は抗てんかん薬によって発作をコントロールできますが、残りの3割は薬に抵抗性の難治性てんかんと呼ばれます。海馬から発作が生じる側頭葉てんかんも難治化しやすく、意識障害を伴う発作(複雑部分発作)を起こします。このような患者さんでは、海馬の神経細胞の軸索という神経突起が枝分かれ(分枝)することがよく知られており、「苔状線維発芽」と呼ばれています(※1)。そして、この異常な軸索分枝が神経細胞間の接続異常を引き起こし、てんかんが難治化すると考えられています。しかし、てんかん発作による軸索分枝のメカニズムはこれまでよくわかっていませんでした。

2.研究の概要

 側頭葉てんかん発作後の軸索分枝に関わるタンパク質を明らかにするため、発作によって増加するタンパク質群の中で軸索分枝を引き起こすものを探しました。その結果、neuritin(ニューリティン)という神経細胞表面に存在するタンパク質(※2)を多く発現させると軸索分枝が形成されることがわかりました。また、通常の神経細胞は発作を起こすと軸索分枝が起きますが、neuritinを持たない神経細胞では発作を起こしてもあまり分枝が起きませんでした(図1)。さらにneuritinを持たない動物では、てんかん発作を起こしても苔状線維発芽の程度は軽く、てんかんの悪化速度も緩やかでした。
 Neuritinがどのようにして軸索分枝を誘導するかを調べ、neuritinがFGF受容体(※3)という別のタンパク質を制御していることを突き止めました。Neuritinが増加すると、FGF受容体が神経細胞の表面へ移動し、neuritinと結合します。その結果、FGF受容体が細胞内へ働きかけるシグナルが増加し、軸索分枝が形成されると考えられました(図2)。さらに、FGF受容体の活性化を抑えることで、neuritinによる軸索分枝形成を抑えることもできました(図1)。

3.今後の展望

 今回、neuritinが増えることによってFGF受容体が活性化し、海馬ニューロンの軸索分枝やてんかん難治化を生じることがわかりました。Neuritinの機能を抑えることによって、てんかん難治化が抑えられると考えられます。このメカニズムは従来の抗てんかん薬の作用機序とは全く異なっており、難治の側頭葉てんかんに対する新しい治療薬としてneuritin機能阻害薬の開発が期待されます。

用語解説

※1 苔状線維発芽とてんかん難治化
 海馬に存在する顆粒細胞と呼ばれる神経細胞の軸索が異常な枝分かれをおこし、分枝の先端が再び顆粒細胞と接続する。これにより顆粒細胞間で神経のシグナルが循環し、てんかん発作が悪化すると考えられている。
※2 Neuritin
 神経の細胞膜の外側に存在するタンパク質。発作以外でも神経活動により発現が増える。
※3 FGF受容体
 FGF(線維芽細胞成長因子)と呼ばれる因子を受け取ることにより活性化し、細胞内へシグナルを送る。このシグナルは様々な細胞の増殖を誘導することが知られている。

画像

 図1 てんかん患者では海馬神経細胞に異常な軸索分枝が形成される(図左)。海馬神経細胞に発作を誘導すると、neuritin量が増えて軸索の分枝が形成される(図中央下)。しかし、neuritinを持たない神経細胞は発作を起こしても分枝は形成されない(図右下)。また、FGF受容体の活性化を抑えると、neuritinが増えても分枝は形成されない(図右上)。

画像

 図2 Neuritinが引き起こす分枝形成の模式図。発作により増えたneuritinはFGF受容体を神経細胞表面へ移動させ、その結果FGF受容体が活性化し、軸索分枝形成を誘導する。

問い合わせ先
(公財)東京都医学総合研究所シナプス可塑性プロジェクト
 電話 03-6834-2358
(公財)東京都医学総合研究所事務局研究推進課
 電話 03-5316-3109

ページの先頭へ戻る