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平成28(2016)年3月30日更新

報道発表資料

〔別紙〕

1 当事者の概要

  1. 申立人組合は、派遣労働者、契約社員、アルバイト、正社員など、あらゆる雇用形態で働く労働者を組織する個人加入のいわゆる合同労組であり、本件申立時の組合員は、約300名である。
  2. 被申立人Y1は、肩書地に本社を置き、電気事業を主たる業とする株式会社であり、本件申立時の従業員は、約35,700名である。
  3. 被申立人Y2は、肩書地に本社を置き、発電所、変電所の建設・保守、電力関連設備工事等を主たる業とする株式会社であり、本件申立時の従業員は、約1,200名である。
  4. 被申立人Y3は、肩書地に本社を置き、火力・原子力発電所における発電プラント機器等のメンテナンス等を主たる業とする株式会社であり、本件申立時の従業員は、約70名である。
  5. 被申立人Y4は、土木建築工事の設計施工、電気設備工場の設計施工を主たる業とする株式会社であり、本件申立時の従業員は、約30名である。
  6. 被申立人Y5は、建築工事業の施工、請負並びに監理を主たる業とする株式会社であり、本件申立時の従業員は、約15名である。

2 事件の概要

Aは、平成24年6月、被申立人Y1のD原発の作業員募集に応じ、申立外Cと雇用契約を締結した。Cは、Y1から業務を請け負った被申立人Y2の第一次下請会社である被申立人Y3、第二次下請会社である被申立人Y4及び第三次下請会社である被申立人Y5のさらに下請会社であった。
Aは、6月19日、D原発において、当初説明されていた業務と異なる、建屋近辺に散乱するガラス撤去等をさせられたことから、Y3の担当者に不服を述べ説明を求めたところ、Cを解雇されるに至った。
Aは、申立人組合に加入し、組合は、8月24日、11月27日、25年10月10日及び11月14日にY1に対し、24年8月24日、11月27日及び25年10月10日にY2ら4社に対して、Aの業務内容が変更になったことなどについて団体交渉を申し入れたが、被申立人らは、いずれも団体交渉を拒否した。
本件は、Y1が上記25年10月10日及び11月14日付団体交渉申入れを、Y2ら4社が上記10月10日付団体交渉申入れを、それぞれ拒否したことが正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否かが争われた事案である。

3 主文の要旨

  1. 被申立人Y2及び同Y3は、申立人Xが、採用時に提示されたものと異なる業務に同X組合員Aが従事することになったことについての団体交渉を申し入れたときは、誠意をもってこれに応じなければならない。
  2. その余の申立てを棄却する。

4 判断の要旨

(1) Y1の団体交渉拒否について

Y1は、Y2にD原発の事故収束作業を発注した者であって、Y1とAとの間に雇用関係はないことはもとより、Aに具体的な作業内容について指示したとか、Aの労働条件に影響力を行使したなどの事実は全く認められないのであるから、労働組合法第7条の使用者としての団体交渉応諾義務を負わないといわざるを得ない。
組合は、1)D原発での事故収束作業及び廃炉作業は、通常の建築工事ではなく、Y1が直接的な管理をしなければ遂行不可能な作業であり、Y1以外に下請労働者の適正な労働条件及び労働安全衛生環境を維持・向上できる者は存在していないこと、2)安衛法の規定により、Y1は、D原発の事故収束作業に関し、「元方事業者」ないし「特定事業(建設業)の仕事を自ら行う注文者」として一定の義務を負うこと、3)Y1の社長の記者会見や国会での発言などから、Y1が労働組合法上の使用者に当たると主張する。しかしながら、これらのことから、Y1が直ちに請負企業の労働者の使用者に当たるということはできない。
以上のとおり、Y1は、労働組合法第7条の使用者には当たらないから、Y1が、組合の団体交渉申入れを拒否したことは、不当労働行為には当たらない。

(2) Y2ら4社の団体交渉拒否について

 (1) 労働組合法第7条にいう「使用者」とは、労働組合法が助成しようとする団体交渉を中心とする集団的労使関係の一方当事者としての使用者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的にはこれに該当するものの、雇用主以外の事業主であっても、労働条件等について雇用主と部分的にとはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配力を及ぼしている場合には、労働組合法上の使用者に当たると解すべきである。
したがって、本件では、組合が申し入れた団体交渉事項ごとに、Y2ら4社が、Aの労働条件等について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配力を及ぼしているか否かについて以下に検討することとする。
(2) Aの業務内容が変更になったことについて
Aの実際の業務内容に関する事項について、これを具体的に決定し、Aに指示していたと認められるY2及びY3は、Aとの関係で労働組合法上の使用者に当たるとともに、当該事項は義務的団交事項に当たるというべきである。そして、Aの業務内容が変更になったことについての団体交渉申入れ事項は、Aの具体的な業務が決定され、指示されるに至る経緯についての説明を求める趣旨のものと解されるところ、Aの業務内容がめまぐるしく変わる一方で、この点について事前にAに対して十分な連絡や説明が行われていたとはいえないことも踏まえると、Y2及びY3は、この申入事項に対し、義務的団交事項に属する問題として誠実に対応することが求められるというべきである。
なお、団体交渉の申入れ時点で、Aは、いずれの会社とも雇用関係がなくなっているが、同人は、現実に健康に影響がないとはいい切れない線量の高い場所で、上記のような事情のもとで業務に従事したものであるとともに、そのことについてY2及びY3から十分な説明を受けているとはいえないことなどに照らすと、Aの業務内容に関して、AとY2及びY3の間には、過去の労働条件に関する未清算の問題が残されているものというべきであり、このような問題について、Y2及びY3は、雇用関係に隣接した関係として、なお使用者の立場にあるというべきである。
(3) Aの賃金から中間搾取した金員を返還すること及びAが解雇される直接的原因を作ったことについて
ア Aの賃金から中間搾取した金員を返還することとの交渉事項は、Aに本来支払われるべき賃金が決まっており、Y2ら4社が、Aの賃金をそれよりも低く決定するか、あるいはAに支払われるべき賃金として定められた額を引き下げた上でその差額を「搾取」したとの前提に立っているものとみられ、このような観点からすると、この交渉事項についてY2ら4社が労働組合法上の使用者に当たるというためには、Aに実際に支払われた賃金あるいはAに支払われるべき賃金として定められた額を、Y2ら4社が実質的に決定していたことが必要になるものといえる。
しかしながら、Aの賃金については、Cが決定しているものとみざるを得ず、Y2ら4社がAの賃金を明示した上で工事契約を行っていたというような事実については何ら疎明がないのであるから、Y2ら4社が、Aの賃金を実質的に決定していたということはできず、また、Y2ら4社においてAに支払われるべき賃金として定められた額が存在したとも、Y2ら4社がこれを実質的に決定していたともいうことはできないといわざるを得ない。
確かに、組合が主張するとおり、Y2及びY3に対する関係では、Aは、Y4の社員として報告されており、書類に対する虚偽記載などの事実が認められるが、これらのことから、Y2ら4社が、Aの賃金を雇用主と同視できる程度に現実かつ具体的に支配・決定できる地位にあったとまでみることはできないといわざるを得ない。
イ Aの解雇については、CのZ社長が、同人に告げていることが認められる。また、上位請負会社がAに現場に来ないようにと言ったためにそれに従うしかないとCの社長が述べた事実は認められるが、同社長は、Y3ではなくY2がそのように言ったと述べている。確かに、6月19日に、AがY3の社員に、業務が変更になったことについて苦情を述べたことがAの解雇の発端になってはいるが、Y3がCに対してAを解雇するように求めたとの直接的な事実は認められず、むしろ、Y3は、作業員全員の就労意思を確認するよう求めたものであり、上記のとおり、6月19日のY5における話合いでは、現在の現場ではAが働きたくないとの意思を持っていることを確認する方向で話合いがなされていることも、これを裏付けているといえる。
さらに、組合とCとの間では協定が締結されているのであって、Aの解雇については、Cが主体的に問題解決に当たっていることが認められる。
ウ したがって、Y2ら4社が、これらの団体交渉事項について、使用者に当たるということはできない。
(4) いわゆる偽装請負、多重派遣の実態に置かれたこと、「社員経歴書」に事実と異なる経歴を記載させたこと及びAの放射線管理手帳の「個人異動履歴」に事実と異なる記載がされていたことについて
これらは、いずれもAに対する使用者としての責任を負うのがいずれの会社であるのかを解明するための具体的な事項であり、Aの労働条件その他の待遇との関わりという観点からは、Aの具体的な業務が決定され、指示される過程に関わる事項と位置付けられるべきものであるから、Y2及びY3がAの実際の業務内容の決定や指示との関係で労働組合法の使用者に当たるのである以上、これらについても、義務的団体交渉事項に当たるというべきである。
ただし、労働者名簿に事実と異なる経歴を記載させたことについては、Y3の事業所内で行われたという以外にY3が関与した事実は認められないし、ほかにY3がこの事項について影響力を行使し得たと認めるに足りる疎明はないのであるから、この点については、Y3との関係では、Aの業務内容の決定との関わりは希薄であって、Aの労働条件その他の待遇に関する事項に当たるとはいい難く、Y3が使用者として説明責任を負うべき義務的団体交渉事項に当たるということはできない。また、これらの点については、既に前記2)で救済した事項と別個に救済する必要性があるものとはいえないから、救済は、主文第1項の程度に止めるのが相当である。
なお、Y4及びY5については、Aの業務内容について具体的に決定、指示する立場にあったとはいえないことから、この点についても、Aとの関係で労働組合法上の使用者であるということはできない。
(5) Aに対して「パワーハラスメント」を行ったことについて
「パワーハラスメント」については、Y3及びY4については、「パワーハラスメント」を行った事実自体が存在しないし、ほかにY3及びY4がこの事項について現実かつ具体的に影響力を行使し得る立場にあったと認めるに足りる疎明はないのであるから、この点について、同社らが使用者に当たるということはできない。
Y5については、前記3)で既に判断したとおりY5が労働組合法上の使用者とはいえないこと、それ以外に、Y5がAの労働条件を支配し得る事実上の力を背景にこれらの言動を行ったと認めるに足りる事実も認められないことからすれば、この団体交渉事項についても、Y5が、Aとの関係で労働組合法上の使用者であるということはできない。
(6) 以上のとおりであるから、本件の救済としては、主文第1項のとおり、組合が改めて、採用時に提示されたものと異なる業務にAが従事することになったことについての団体交渉を申し入れたときは、Y2及びY3は、これに応ずるよう命ずることとする。また、組合は、誓約書の掲示をも求めているが、主文の程度をもって相当と考える。
なお、組合は、Aの解雇について、Cと和解してはいるが、そのことは、上記の結論を左右するものではない。

5 命令交付の経過

  1. 申立年月日
    平成25年11月28日
  2. 公益委員会議の合議
    平成28年1月19日
  3. 命令交付日
    平成28年3月30日

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