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平成27(2015)年4月17日更新

報道発表資料

難治性てんかんや知的障害の発症メカニズムの詳細について

1 研究の背景

 結節性硬化症は、神経系や皮膚、腎、肺など全身に良性の腫瘍ができる難病(東京都単独指定難病83)です。主な神経系の症状として、乳児期から始まる難治性てんかんや知的障害が知られています。最近は、自閉症も多く合併することがわかってきました。この病気は、Tsc1あるいはTsc2という蛋白質の異常で起きることが報告されています。健常人ではこれらTsc蛋白質がRheb(レブ、※1)という蛋白質の機能を抑えていますが、Tscに異常が生じると、Rhebとその下流のmTOR(免疫抑制薬ラパマイシンの標的蛋白質)が活性化され、病気を発症することが知られています。実際、ラパマイシンやその誘導体(※2)が結節性硬化症の腎臓や肺の腫瘍に対する治療薬として用いられていますが、神経症状、例えばてんかんに対しては、有効であった症例もある一方、増悪した症例もあり、まだ有効性が確定していません。

2 研究の概要

 私たちは、結節性硬化症のてんかんや知的障害の発症機構を明らかにするため、この病気のモデル動物から神経細胞を培養し、そのシナプスを調べました。シナプスは、神経細胞の軸索という突起の先端(=シナプス前部)が、別の神経細胞の樹状突起という突起に接着することによって出来ます。正常では、情報を受け取る側のシナプス後部が樹状突起から少し膨らみ、キノコのような形(スパイン=棘)を呈しますが、結節性硬化症ではこのようなスパインはほとんど見られず、樹状突起上に直接シナプスが出来ていました(図1)。スパインの先端は膨らんでおり、そこへ流入したカルシウムイオンが局所的に増えることが記憶に必要と考えられています。さらに、スパインは過剰なイオンが流入しても、細い部分でイオンが突起へ運ばれることを防いでいます。一方、樹状突起に直接シナプスが出来るとイオン濃度が薄まるだけでなく、過剰なイオンが流入した場合、細胞全体へ伝わるため、過剰興奮しやすくなる(=てんかん発作)と考えられます(図2)。結節性硬化症の神経細胞にラパマイシンを加えましたが、スパインは回復せず、樹状突起シナプスも変化しませんでした。
 そこで、神経細胞ではmTORよりRhebの役割の方が大きいと考え、その結合蛋白質を調べた結果、結節性硬化症ではsyntenin(シンテニン、※3)という蛋白質がRhebから離れ、増加することを見出しました。正常の神経細胞でsynteninを増加させると、スパインが出来なくなり、樹状突起シナプスが増加しました。逆に、結節性硬化症でsynteninを減少させると、スパインが回復し、樹状突起シナプスは減少しました(図1)。以上の結果から、結節性硬化症のシナプスを正常化するためには、Rhebやsynteninの機能を抑える必要があることがわかりました。

3 今後の展望

 今回、結節性硬化症ではRhebの活性化が正常なシナプス形成を阻害していることがわかりました。しかし、Rheb自体がてんかん発作によって増加する(※1)ことから、他の難治性てんかんでも発作後にRhebが増加し、シナプス形成を障害していると考えられます。今後は、Rhebあるいはsynteninの機能を抑える薬の探索や開発が難治性てんかんや知的障害の予防や軽減のために必要であると考えられます。

用語解説

※1 Rheb
 低分子量GTP結合蛋白質の一種。がん遺伝子として有名なRasの仲間。1994年に山形らがてんかん発作によって増加する蛋白質として発見した。

※2 ラパマイシンとその誘導体
 mTOR阻害薬。結節性硬化症の腫瘍性病変以外にも、抗がん剤(腎がん、乳がん)や免疫抑制薬としても用いられている。副作用は間質性肺炎、感染症、高血糖など。

※3 Syntenin
 結節性硬化症ではsyndecan-2というスパイン形成を促す蛋白質に結合し、機能を抑制するとともに、ephrinB3という蛋白質とも結合し、樹状突起シナプスを増やすことがわかった。

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図1 結節性硬化症では、活性型Rhebからsynteninが離れ、スパイン形成を阻害するとともに樹状突起シナプスを増加させた。Synteninを減少させると結節性硬化症でも正常なシナプスが回復した。

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図2 樹状突起上に直接シナプスが出来るとカルシウムイオン濃度が上昇しない(記憶の障害)だけでなく、過剰なイオンが細胞に流入する結果、過剰興奮(てんかん発作)しやすくなる。

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