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報道発表資料  2013年7月4日  福祉保健局

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者脳に出現する原因タンパク質TDP-43の異常凝集物が自身を鋳型として細胞内で増殖・蓄積することを実証
ALSなどのコンフォメーション病の発症メカニズムの解明・治療法開発に期待

 (公財)東京都医学総合研究所の野中隆副参事研究員,長谷川成人参事研究員らは,筋萎縮性側索硬化症(ALS)(※1)や前頭側頭葉変性症(※2)の患者脳に出現する原因タンパク質TDP-43の異常な凝集物(固まり)が,極めて安定で生体内で分解・排除されにくく,細胞内で自身を鋳型として異常蓄積し,さらに細胞から細胞へと伝播しやすい性質を有し,最終的に細胞死を誘導することを世界で初めて発見しました。
 この研究成果は,TDP-43がどのようなメカニズムで細胞内に蓄積し,その結果神経変性が導かれるのかという筋萎縮性側索硬化症の発症メカニズムの解明,さらに治療薬の開発に大きく貢献することが期待されます。なお,この研究は,文部科学省科学研究費補助金・新学術領域による補助,及び東京都からの運営費補助金による「がん・認知症対策」特別研究の一環として,平成20年度から実施されているものです。

1 研究の背景

 アルツハイマー病,パーキンソン病あるいはALSに代表される神経変性疾患では,患者脳の神経細胞内に特定のタンパク質からなる異常な凝集物(固まり)が形成され,これが神経細胞死を引き起こし,最終的に発症すると考えられています。これらの凝集物は,本来なら凝集しない正常なタンパク質の形(立体構造:コンフォメーション)が異常な形へと変化し,その変化したタンパク質が細胞内で凝集することで形成されると考えられており,このような異常凝集物が出現する神経変性疾患は,最近ではコンフォメーション病(※3)とも呼ばれています。しかしながら,これらの異常な凝集物がどのようなメカニズムで形成されるのか,またどのような性質を有するのかについては未だ不明な点が多いのが現状です。今回,野中副参事研究員らは,患者脳より異常な凝集物を取り出し,その極めて安定な性質を見いだすと共に,それらを神経由来の培養細胞(※4)に導入することによって,患者脳で起きている神経細胞の異常を,実験室レベルで極めて忠実に再現するモデルを構築することに世界で初めて成功しました。

2 研究の概要

 ALS患者脳よりTDP-43凝集物を生化学的に調製し,電子顕微鏡で観察したところ,これらは正常細胞には見られない異常な線維状の構造物であることが判明しました(参考図1)。これらの凝集物を培養細胞に導入すると,外から加えられた凝集物を鋳型として,培養細胞に存在する正常なTDP-43(本来なら凝集しないはずのTDP-43)が異常蓄積し始めることを見いだしました(参考図2)。これらの培養細胞で見られた異常凝集物には,患者脳に出現する凝集物で特徴的に起きているTDP-43のリン酸化といった変化も観察されたことから,患者脳に見られる異常凝集物と極めて良く性質が類似していることも分かりました(参考図2)。また,このような凝集物が存在する細胞はしばらくして死滅することも分かりました。さらに,このTDP-43の凝集物は,細胞から細胞へと伝播しやすく,伝播した先の細胞内において再び鋳型として機能し,異常凝集物が次々と作り出される可能性が示唆されました。この細胞モデルを利用して,異常なTDP-43凝集物の性質を検討したところ,これらを100℃で加熱したり、タンパク質分解酵素で処理しても,鋳型としての機能が保たれるという驚くべき性質が見いだされました。以上の結果より,生体内で異常凝集したTDP-43は,その安定な性質のため生体による分解・排除機構を免れ,神経細胞から神経細胞へと伝達され,自身を鋳型として本来なら凝集しないはずの正常TDP-43を次々と凝集させ,最終的に神経細胞を死に至らしめることが考えられます(参考図3)。

3 今後の展望

 本研究で構築したTDP-43凝集物形成の細胞モデルは,ALSの発症機序の解明だけでなく治療薬開発にも応用できることが期待できます。これまではTDP-43の最初の異常蓄積を抑制する化合物の探索などに重点が置かれてきましたが,それだけではなく,異常凝集物の細胞から細胞への伝播を抑制する化合物なども治療薬として開発できる可能性があります。

用語説明

※1 筋萎縮性側索硬化症(ALS)

 筋肉の萎縮と筋力低下をきたす神経変性疾患で,極めて進行が速く,約半数の患者さんが発症後3年から5年で呼吸筋麻痺により死亡するという難病です。1年間に人口10万人あたり1~2人程度が発症するといわれており,国内の患者数はおよそ7000人です。脳や脊髄の神経細胞に異常なタンパク質凝集物が出現しますが,2006年に我々の研究グループおよび米国の研究グループにより,TDP-43というタンパク質がその主要な構成成分であることが判明しました。

※2 前頭側頭型変性症

 アルツハイマー型認知症,レビー小体型認知症に次いで頻度が高い認知症で,若年性認知症に分類される中高年期に好発します。アルツハイマー病とは異なり,特有の人格障害や行動障害を来します。ALSと同様に,脳の神経細胞にTDP-43からなる異常な凝集物が多数出現する病気です。

※3 コンフォメーション病

 アルツハイマー病,パーキンソン病やALSなどの神経変性疾患では,患者脳にタンパク質性の凝集物が形成され,これらが神経細胞を障害すると考えられています。これらの凝集物は,本来なら凝集しない正常タンパク質の立体構造(コンフォーメーション)が何らかの原因によって異常な形に変化し,その結果自己凝集すると考えられています。このため,最近では,これらの疾患の総称としてコンフォメーション病という新しい概念が提唱されています。

※4 培養細胞

 ヒトやマウスなどの生体から取り出され,生体外で維持され培養されている細胞のことです。生物学の実験において世界中で使用されており,様々な臓器由来の培養細胞が構築されています。

参考図1

 ALS患者脳より調製したTDP-43凝集物の電子顕微鏡写真

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 (左)黒い点で囲まれた線維状のものが異常凝集物であり,これらは正常な細胞では通常観察されない。(右)その拡大図。

参考図2

 患者脳由来の凝集物を培養細胞に導入すると,正常のTDP-43が細胞内蓄積する。

写真 写真

 左の「未処理細胞」では,TDP-43は核に発現しており,凝集物は見られない。また異常蓄積したTDP-43の特徴の一つであるリン酸化も受けていない。しかし,患者脳より調製したTDP-43凝集物をこのような細胞に導入すると(右図),本来なら凝集しない正常なTDP-43が核の外側(細胞質)に固まりとなって凝集し,さらに正常では見られなかったリン酸化を受けたことが分かる。

参考図3

 異常蓄積したTDP-43による神経細胞死誘導のメカニズムの模式図

写真

 脳や脊髄の神経細胞内で異常凝集したTDP-43は,細胞から細胞へと伝わりやすい性質を有しており,近隣の細胞に伝播する。その移った先の細胞内において鋳型として作用し,正常TDP-43を次々と凝集させ,最終的にその神経細胞は死に至る。死んだ細胞から放出されたTDP-43凝集物は,さらに周囲の細胞に伝播し,その細胞内で再び鋳型として作用し,TDP-43の凝集物形成がさらに増大する。その結果,周囲の神経細胞が次々と死に,最終的に発症に至るというメカニズムが考えられる。

問い合わせ先
(公財)東京都医学総合研究所認知症・高次脳機能分野
 電話 03-6834-2349
(公財)東京都医学総合研究所事務局研究推進課
 電話 03-5316-3109

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