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報道発表資料  2013年5月24日  福祉保健局

体に蓄えられた魚の油が病気を止める
体に優しい脂質を動かし炎症にブレーキをかける酵素の発見

 (公財)東京都医学総合研究所の村上誠参事研究員、山本圭研究員、三木寿美研究員らは、体に優しい脂質成分を免疫器官で動かして炎症にブレーキをかける酵素を初めて同定しました。本研究成果は、さまざまな炎症性疾患の新たな治療薬開発につながることが期待されます。
 なお、この研究は、昭和大学の原俊太郎教授、東京大学の有田誠教授、京都大学の椛島健次准教授らとの共同研究での成果であり、文部科学省科学研究費補助金新学術研究領域「生命応答を制御する脂質マシナリー」の研究課題「ホスホリパーゼA2分子群により制御される新しい脂質ネットワークの解析」、日本学術振興会基盤研究B「分泌性ホスホリパーゼA2酵素群の生体内機能に関する総合解析」(研究代表者:村上誠)、基盤研究C「炎症性皮膚疾患モデルマウスにおける脂質代謝ネットワークの解析」(研究代表者:山本圭)、若手スタート支援研究「炎症免疫応答の収束を制御するsPLA2の新機能」(研究代表者:三木寿美)の支援を受けて行われました。
 この研究成果は、米国科学雑誌「Journal of Experimental Medicine(ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン)」の5月20日(米国現地時間)付オンライン版に掲載されました。

1 研究の背景

 魚油に豊富に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA:脂肪酸の一種)が健康によいことはよく知られており、魚食文化が根づいている我が国が長寿を誇ることの要因のひとつと考えられています。最近の研究から、DHAの健康促進作用のメカニズムのひとつとして、DHAから「抗炎症性脂質メディエーター(※1)」と呼ばれる生理活性脂質の一群が生合成されることがわかってきました。この脂質には、一度起こった炎症反応にブレーキをかけて元の正常状態に戻す活性があります。私たちの体の中では、DHAは、主に細胞膜の主要成分であるリン脂質に取り込まれた形で蓄えられています。DHAが「抗炎症性脂質メディエーター」に変換されるためには、リン脂質からDHAが酵素的に遊離される必要があります。しかし、この反応を担う酵素の分子的実体はこれまで不明でした。

2 研究の概要

 ホスホリパーゼA2(PLA2)(※2)と呼ばれる分子群はリン脂質から脂肪酸を遊離する酵素活性を持ち、私たちの体の中には30種類を超えるアイソザイム(同一の反応を触媒する類縁の酵素)が存在します。村上参事研究員のチームは、マウスを用いてPLA2酵素群の遺伝子をひとつずつ網羅的に無くした時にどのような異常を発症するかについて解析を推進しています。
 今回、PLA2アイソザイムのひとつであるPLA2G2D遺伝子を無くしたマウスに接触性皮膚炎(4型アレルギー:※3)をおこすと、本来なら炎症の後期に起こるはずである回復が遅れ、炎症反応が持続することを見出しました。PLA2G2Dの働く部位を調べた結果、この酵素は異物に対する免疫応答が活発に起こる場であるリンパ器官(リンパ節や脾臓)に分布しており、中でも樹状細胞(※4)と呼ばれる細胞集団でよく働いていました。通常、樹状細胞は外界からの異物の刺激を受けてから活性化しますが、PLA2G2D遺伝子が無いマウスの樹状細胞は、刺激がない状態から既に活性化状態にあり、その結果Tリンパ球が活性化し、炎症を促進するサイトカイン(免疫応答において細胞間情報伝達を担う可溶性タンパク質)が増加していました。リピドミクス(※5)と呼ばれる手法で脂質の分析を行った結果、PLA2G2D遺伝子を無くしたマウスではリンパ節の膜リン脂質からのDHAの遊離が著しく減少し、その結果DHA由来の抗炎症性脂質メディエーターのひとつであるリゾルビンD1が減少するため、免疫反応が過剰に進行することがわかりました。つまり、PLA2G2Dは、免疫反応にブレーキをかけるために、膜リン脂質からDHAをつくりだす酵素であることが初めてわかったのです。

3 今後の展望

 DHAの抗炎症作用は、接触性皮膚炎のようなアレルギー反応だけでなく、多くの炎症、免疫疾患や動脈硬化、肥満などにおいても見られます。したがって、PLA2G2Dによる炎症のブレーキは多くの炎症性、代謝性疾患でも起こっているものと予想され、将来的にはPLA2G2Dを標的としたバイオ医薬品の開発研究へと発展する可能性があります。

用語説明

※1 脂質メディエーター

 生理活性脂質とも呼ばれる。脂肪酸のひとつであるアラキドン酸から特異的合成酵素により生合成されるプロスタグランジンやロイコトリエンが有名であり、これらは炎症を促進する活性を持つものが多い。これに対し、DHAが代謝を受けて生合成される脂質メディエーターは炎症を抑制する活性を持つものが多く、リゾルビンD1はそのひとつである。

※2 ホスホリパーゼA2(PLA2

 膜リン脂質を加水分解して脂肪酸を遊離する酵素で、脂質メディエーター産生経路の最上流に位置する。哺乳動物では30種類以上の分子種が存在し、それぞれが固有の組織分布を示し、特有の生命応答に関わることが明らかとなってきている。本研究ではこのうち細胞外に分泌されるPLA2アイソザイムのひとつ(PLA2G2D)を取り扱っている。

※3 接触性皮膚炎(4型アレルギー)

 アレルギーは古典的に大きく4つのタイプに分類され、接触性皮膚炎は4型に分類される。抗原の反復暴露を受けることによりリンパ球(T細胞)を中心とした免疫反応が起こり、皮膚炎を生じる。ウルシかぶれや金属アレルギーがこの代表である。

※4型アレルギーの正しい表記はローマ数字です。

※4 樹状細胞

 抗原提示細胞として機能する免疫細胞。リンパ組織のほか、外界に触れる組織(皮膚、気道、消化管など)に多く存在し、その名の通り樹状突起を伸ばし、異物を活発に捕獲する。抗原を取り込んだ樹状細胞は活性化し、T細胞に抗原を提示することで、抗原特異的な免疫応答を調節する役目を担う。

※5 リピドミクス

 ゲノミクス(遺伝子)、プロテオミクス(タンパク質)、グライコミクス(糖)に対応する、脂質を対象とした網羅的解析を指す。それぞれの脂質分子種の分子量が異なることを利用して、組織や細胞などの検体に存在する多種多様な脂質分子種を質量分析により一斉に同定、定量する。最近の質量分析の高感度化により、微量の脂質分子種を容易に検出することが可能となった。

参考図

 モデル:PLA2G2Dはリンパ節においてリン脂質からDHAを動員し、抗炎症性脂質メディエーターを介して接触性皮膚炎にブレーキをかける役割を持つ。

イメージ

問い合わせ先
(公財)東京都医学総合研究所
脂質代謝プロジェクト
 電話 03-5316-3228
事務局研究推進課
 電話 03-5316-3109

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