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報道発表資料  2013年4月30日  福祉保健局

Nature Immunology 表紙掲載!
アレルギーを起こす新しい脂質代謝経路を解明
花粉症等アレルギー克服に向けての新しい創薬に期待

 (公財)東京都医学総合研究所の村上誠副参事研究員、武富芳隆主任研究員らは、体の中で脂質に働く酵素と受容体の研究から、アレルギー発症の新しい仕組みを解明しました。すなわち、アレルギーの中心的役割を担う「マスト細胞(※1)」が成熟する過程において、特殊な生理活性脂質経路(※2)が働いているということを初めて見つけました。本研究成果は、国民的疾患である花粉症やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の新たな治療薬開発につながることが期待されます。
 なお、この研究は、熊本大学の杉本幸彦教授、岡山大学の田中智之教授、昭和大学の原俊太郎教授、大阪バイオサイエンス研究所の裏出良博教授、日本大学の羅智靖教授、順天堂大学の横溝岳彦教授、京都大学の成宮周教授、東京大学の清水孝雄教授らとの共同研究での成果であり、文部科学省科学研究費補助金新学術研究領域「生命応答を制御する脂質マシナリー」の研究課題「ホスホリパーゼA2(※3)分子群により制御される新しい脂質ネットワークの解析」と日本学術振興会基盤研究B「分泌性ホスホリパーゼA2酵素群の生体内機能に関する総合解析」(研究代表者:村上誠)、ならびに同若手研究B「3型分泌性ホスホリパーゼA2による新しいアレルギー応答調節マシナリーの解明」(研究代表者:武富芳隆)の支援を受けて行われました。
 この研究成果は、米国科学雑誌「Nature Immunology(ネイチャー・イムノロジー)」の4月28日(米国東部時間)付オンライン版に掲載されました。本研究は同誌の表紙として採用されます。

1 研究の背景

 アレルギーは外界刺激(アレルゲン)に対する生体の過剰免疫応答の一種であり、花粉症、喘息、蕁麻疹などに代表されますが、全身性に起こる即時応答はアナフィラキシーショックと呼ばれ、ときに生命を脅かします。国民の約3分の1が何らかのアレルゲンに対してアレルギーを持っている今日、その分子メカニズムを究明することは医学的にも社会的にも極めて重要です。
 マスト細胞はアレルギーの中心的役割を担う細胞で、細胞表面の高親和性IgE受容体がIgE(免疫グロブリンE)を介して抗原(アレルゲン)と結合すると活性化し、ヒスタミンなどの炎症性物質を放出します。マスト細胞は骨髄幹細胞より生まれた後、未成熟な前駆細胞(幹細胞から特定の細胞に分化する途中の段階にある細胞)として血管外組織に定着した後に、SCF(Stem cell factor:幹細胞因子)と呼ばれる組織微小環境由来のサイトカイン(免疫反応に中心的な役割を果たす可溶性の生理活性タンパク質)に応答して増殖します。しかしながら、SCF単独ではマスト細胞の最終成熟させることができず、「プラスα」の因子が必要であると考えられてきましたが、その実体は不明でした。

2 研究の概要

 激しいアナフィラキシーを惹き起こすハチ毒の本体は、ホスホリパーゼA2(PLA2)と呼ばれるリン脂質分解酵素です。哺乳動物にもハチ毒PLA2に似た遺伝子PLA2G3(3型PLA2)があることから、この分子を欠損または過剰発現したマウスを作成し、その働きを調べました。その結果、PLA2G3遺伝子を欠損したマウスではアナフィラキシーが著しく軽減し、逆に過剰発現マウスでは増悪することを見出しました。酵素PLA2G3はマスト細胞内に貯蔵されており、外界からの刺激により細胞外に分泌されます。この酵素が欠損したマウスではマスト細胞の数は正常でしたが、形質的に未成熟でヒスタミン含量が著しく少なく、このためにアレルギー反応が起こらないことが判りました。
 PLA2はリン脂質から脂肪酸を遊離します。この脂肪酸は、下流の合成酵素によって多種多様な脂質メディエーター(生理活性脂質※2)に代謝され、それぞれが特異的な受容体に作用することで様々な生命現象に関わります。酵素PLA2G3の下流で機能する脂質メディエーターを同定するために、数多くの脂質メディエーターの合成酵素および受容体の欠損マウスにおけるアナフィラキシー応答を網羅的に調べました。その結果、脂質メディエーターのひとつであるPGD2を合成する酵素L-PGDS、ならびにPGD2の第一受容体DP1の欠損マウスが、PLA2G3欠損マウスと類似の表現型を示すことを見出しました。更に、マスト細胞のPLA2G3またはDP1、あるいは間質線維芽細胞のL-PGDSが遮断されると、マスト細胞の成熟が著しく損なわれることがわかりました。したがって、線維芽細胞由来のSCFの刺激によりマスト細胞から分泌されたPLA2G3は、隣接する線維芽細胞のL-PGDSを介してPGD2を産生し、このPGD2がマスト細胞上のDP1に作用することで、マスト細胞の成熟が正常に進行することが明らかとなりました。すなわち、マスト細胞の成熟に関わる未知の「プラスα」とは、従来想定されていたサイトカインや接着分子等ではなく、マスト細胞と線維芽細胞の相互作用により作動するPLA2G3(酵素)→L-PGDS(酵素)→PGD2(脂質メディエーター)→DP1(受容体)の脂質代謝経路だったのです。更に、この脂質代謝経路がヒトのマスト細胞の成熟プロセスにおいても作動することが確認されました。

3 今後の展望

 現在、アレルギーの治療薬としては抗ヒスタミン薬やマスト細胞安定化薬が一般に使用されていますが、一度症状が出てしまうとその効果は十分とは言えず、眠気などの副作用があります。今回発見した「マスト細胞の成熟を制御する脂質経路」を標的とした創薬は、新しいアレルギー治療薬・予防薬の開発に期待が持てます。特に、PLA2G3はゲノム上に類縁の分子が存在せず、また特異的阻害剤が存在しないことから、新規の抗アレルギー薬の創薬標的として有望です。

用語説明

※1 マスト細胞

 全身の間質組織や粘膜組織に分布し、ヒスタミンに富む分泌顆粒を有する免疫担当細胞。細胞膜上の高親和性IgE受容体を介したシグナルにより活性化し、ヒスタミン等の顆粒内容物を放出すると同時に、脂質メディエーターやサイトカインを産生します。元来は寄生虫に対する生体防御応答に重要な役割を担いますが、寄生虫感染の懸念が少ない先進国ではアレルギーの悪玉細胞としての側面が顕在化してきました。最近では、アレルギー応答のみならず、様々な炎症性・代謝性疾患に関わることが指摘されています。

※2 生理活性脂質

 脂質メディエーターとも呼ばれます。アラキドン酸などの脂肪酸から特異的合成酵素による代謝を受けて生合成され、特異的な受容体を介してシグナルを伝達します。プロスタグランジンやロイコトリエンは脂質メディエーターの代表的な一群であり、本研究で扱っているPGD2はそのひとつです。

※3 ホスホリパーゼA2(PLA2)

 膜リン脂質を加水分解して脂肪酸を遊離する酵素で、脂質メディエーター産生経路の最上流に位置します。哺乳動物では30種類以上の分子種が存在し、それぞれが固有の組織分布を示し、特有の生命応答に関わることが明らかとなってきています。本研究ではこのうち細胞外に分泌されるPLA2アイソザイム(類似の構造を持つ一群の酵素タンパク質のひとつ)である3型PLA2(PLA2G3)を取り扱っています。

※3型の正しい表記はローマ数字です。

参考図

 モデル:マスト細胞の成熟を制御するPLA2G3→L-PGDS→PGD2→DP1の脂質代謝経路

イメージ

(公財)東京都医学総合研究所
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