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報道発表資料  2013年2月8日  福祉保健局

統合失調症、自閉症など精神・神経疾患および発達障害の病因解明に向け前進
脳形成に不可欠なスイッチタンパク質、RP58発見

 (公財)東京都医学総合研究所の丸山千秋主席研究員、岡戸晴生副参事研究員らは、脳の形成を決める遺伝子を制御するタンパク質を世界で初めて突き止めました。「RP58転写因子」(※1、※2)に、特定の遺伝子の発現を抑制するスイッチ機能があることを発見したものです。マウス胎児脳の実験で、神経細胞(ニューロン)が脳を作り上げるための移動過程で、「RP58」が、神経分化促進遺伝子(※3)を適切なタイミングでスイッチoffしていることを世界で初めて明らかにしました。
 ヒトにもこの「RP58転写因子」があります。ニューロンの移動制御に乱れがあると、脳形成異常や統合失調症、自閉症などの精神・神経疾患および発達障害の発症につながることがわかっています。今回の発見で、原因遺伝子候補である「RP58」のヒトでの解析により、これら疾患の原因解明につながることが期待されます。
 研究成果は、米国Cell Press社の科学雑誌「Cell Reports(セルリポート)」の2月7日正午(米国東部時間)付オンライン版で発表されました。

1 研究の背景

 胎児の大脳皮質(※4)が形成される際、神経細胞(ニューロン)は脳深部の脳室帯で発生後、脳表に向かって移動し、特定の位置に定着します。移動がうまくいかないと大脳皮質の層構造が乱れ、神経回路形成の障害となります。この過程に関わる遺伝子の突然変異は、脳形成異常や統合失調症、自閉症などの精神・神経疾患を引き起こしますが、これまで詳しいメカニズムはわかっていませんでした。研究グループは「RP58」という転写因子がニューロン移動を制御し、ニューロンの脳表への移動をスムーズに行わせることを特定しました。

2 研究の概要

 すべての遺伝子は、スイッチにあたる“転写因子”と呼ばれるタンパク質により、onになったりoffになったりする調節を受けます。RP58転写因子は、遺伝子をoffにする「抑制スイッチ」です。今回マウスの脳ができる際、新生ニューロンが脳表面に向かってスムーズに移動するために、RP58が神経分化促進遺伝子であるNgn2と呼ばれる遺伝子を適切なタイミングでoffにすることを明らかにしました。丸山研究員らは、RP58遺伝子が欠失したマウス(RP58ノックアウトマウス)を用いて脳の新生ニューロンの移動を詳しく調べました。その結果ノックアウトマウスは正常(野生型マウス)と比べてニューロンの移動障害がみられました。解析の結果、RP58タンパク質がない脳では、Ngn2の発現が異常に亢進していました。この異常発現を実験的に抑制すると、移動障害がレスキューされるなどの実験から、ニューロンの移動過程でスムーズに脳表に向かって移動するためには、RP58がNgn2の発現を抑制する必要があることがわかりました。
 Ngn2自体もスイッチタンパク質の一つで、RP58遺伝子を始め複数の標的遺伝子の転写をonにすることでニューロン分化が進みます。すなわちRP58タンパク質は、自らの遺伝子をonにしたスイッチ遺伝子を、今度はoffにするという負のフィードバック制御機構を担うことが初めて明らかになり、遺伝子発現のonとoffのタイミングが大脳皮質の層構造の構築に重要である事が証明されました。

3 今後の展望

 今回の発見により、生まれたてのニューロンの移動における、遺伝子スイッチの制御関係が明らかになりました。ニューロンの移動障害は脳形成異常や統合失調症、自閉症などの精神・神経疾患および発達障害をひき起こすことから、「RP58」のヒトでの解析により、これら疾患の病因解明や新しい治療法の開発につながることが期待されます。また将来的に、脳の再生医療の際、神経細胞が正しく配置するための手法開発の基盤となることも期待できます。
 なお、本研究は日本学術振興会科学研究費補助金、文部科学省科学研究費助成事業および、新学術領域『神経細胞の多様性と大脳新皮質の構築』の一環として実施されているものです。

用語説明

※1 RP58
 Repressor Protein (リプレッサープロテイン)58kDaの略称。大脳皮質のニューロンに存在する転写抑制因子

※2 転写因子
 遺伝子はその機能を発揮するためには、まずDNAの遺伝情報をmRNAに読み取る“転写”が必要である。その後“翻訳(タンパク質を合成する反応)”により機能タンパク質になる。この転写過程を制御するタンパク質を転写因子という。その作用の違いにより転写活性化因子と転写抑制因子が知られている。

※3 神経分化促進遺伝子
 神経細胞は神経前駆細胞(神経になる予定の細胞)から分化する事で神経の性質を持つようになる。その分化のタイミングを促す因子の事を神経分化促進因子といい、この蛋白質をコードする遺伝子を神経分化促進遺伝子という。Ngn2(ニューロジェニン2)はその一つで、前駆細胞でNgn2を発現した細胞はニューロンに分化する。

※4 大脳皮質
 哺乳類の脳の一部分。哺乳類になってから特に発達し、高等なほど脳全体に占める割合が高い。思考や記憶などの高次脳機能を司り、同種の神経細胞が層状に並んだものが6層構造になっている。

※別添 参考図(PDF形式:427KB)

問い合わせ先
(公財)東京都医学総合研究所
神経細胞分化プロジェクト
 電話 03-6834-2403
事務局研究推進課
 電話 03-5316-3109

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