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報道発表資料  2012年12月19日  福祉保健局

自閉症に対する新しい薬物治療
ラパマイシンは結節性硬化症モデル動物の社会的相互作用障害を改善する

 東京大学大学院医学系研究科の水口雅教授らは、東京都医学総合研究所の池田和隆参事研究員ら、順天堂大学の樋野興夫教授らとの共同研究により、自閉症の主症状である社会性相互交流障害がラパマイシン(mTOR(注1)阻害薬の1種。mTOR阻害薬は、抗腫瘍薬、免疫抑制薬として複数の国で認可されている)により改善することを、2種類の結節性硬化症モデルマウスを用いた動物実験により明らかにしました。本研究における成果は、mTOR阻害薬を用いた薬物治療により自閉症の症状を成人患者においても改善しうることを示し、今後の薬物治療の可能性を大きく切り開きました。
 この研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」の12月18日(英国現地時間)付けオンライン版で発表されました。

1 発表のポイント

成果

 結節性硬化症マウスに自閉症の主な症状(社会的相互交流障害)があり、それがラパマイシン(mTOR阻害薬)により改善されることを見いだした。

新規性

 自閉症様症状がmTORを介した細胞内情報伝達系の機能障害によること、mTOR阻害薬で治療すると改善することを明らかにした。

社会的意義/将来の展望

 mTOR阻害薬はすでに抗腫瘍薬として市販されている。本研究成果により、今後ヒトの自閉症の薬物治療に応用できる可能性が拓かれた。

2 発表概要

 東京大学大学院医学系研究科の水口雅教授らは、東京都医学総合研究所の池田和隆参事研究員ら、順天堂大学の樋野興夫教授らとの共同研究により、自閉症の主症状である社会性相互交流障害がラパマイシン(mTOR(注1)阻害薬の1種。mTOR阻害薬は、抗腫瘍薬、免疫抑制薬として複数の国で認可されている)により改善することを、2種類の結節性硬化症モデルマウスを用いた動物実験により明らかにしました。
 自閉症は社会的相互交流障害、コミュニケーション障害、反復的・常同的行動を主症状とする発達障害です。結節性硬化症は自閉症を高率に合併し、自閉症の基礎疾患の中では頻度が最も高いものです。水口教授らは、結節性硬化症1型、2型(注2)のモデルマウスに社会的相互交流障害があること、おとなに対するラパマイシン投与によりこの障害が改善されること、2型モデル動物の脳内でmTOR系の遺伝子発現や蛋白リン酸化に複数の異常があり、その多くがラパマイシンにより正常化することを見いだしました。
 自閉症に対する薬物治療は、従来表面的な対症療法がほとんどで、社会的交流障害を改善する効果は乏しかったのです。
 本研究における成果は、mTOR阻害薬を用いた薬物治療により自閉症の症状を成人患者においても改善しうることを示し、今後の薬物治療の可能性を大きく切り開きました。

3 発表内容

(1) 研究の背景

 自閉症は社会的相互交流障害、コミュニケーション障害、反復的・常同的行動を主症状とする発達障害です。自閉症の有病率は人口の1%以上ともいわれ、社会適応の困難が強いことが医学的、社会的に問題となっています。いっぽう結節性硬化症は自閉症を高率に合併し、自閉症の基礎疾患の中では頻度が最も高いものです。結節性硬化症の原因遺伝子はTSC1とTSC2のふたつで、それらの蛋白産物はmTORを介した細胞内情報伝達系に属し、細胞の増殖・成長や死(アポトーシス)を制御しています。またこの系にはPTEN(注3)、FMR(注4)などの遺伝子も属しており、それらの変異も自閉症の病因となることから、自閉症に関連した脳機能にも関与することがわかっています。

(2) 研究の内容

 東京大学大学院医学系研究科の水口雅教授らは、公益財団法人東京都医学総合研究所の池田和隆参事研究員ら、順天堂大学の樋野興夫教授、小林敏之准教授らとの共同研究により、結節性硬化症モデルマウスを用いた行動薬理学的研究を行いました。
 ヒト結節性硬化症1型および2型に対応する遺伝子変異を持つノックアウトマウス(3~7か月齢の成獣)に対し社会的相互作用試験(注5)を行ったところ、新奇マウスに対する探索行動が減少し、後肢による立ち上がり行動が増加していました。他の行動解析のデータと総合した結果、これらの行動異常はヒト自閉症における社会的相互交流障害に相当することが示されました。ところがラパマイシンを投与すると、探索行動が増加し、立ち上がり行動が減少して正常(野生型)マウスと差がなくなりました。すなわち自閉症様行動異常が改善した、と考えられました。
 つぎに2型モデルマウスの脳内の遺伝子発現と蛋白リン酸化状況を調べたところ、mTOR系の複数の遺伝子発現(メッセンジャーRNA量)に異常が生じており、mTOR系下流のS6K(注6)蛋白のリン酸化が亢進していました。ラパマイシン投与後には多くの遺伝子の発現とS6Kのリン酸化が正常化していました。ラパマイシンによる行動の改善は、mTOR系の遺伝子発現と蛋白リン酸化の正常化を介したものであることが明らかとなりました。

(3) 社会的意義

 自閉症に対する薬物治療は従来、表面的な対症療法がほとんどで、社会的交流障害を改善する効果は乏しかったのです。本研究で注目したラパマイシンによる薬物治療は、mTOR系を分子標的として、結節性硬化症などmTOR系の機能異常に起因する自閉症の病態を是正する本質的な治療法です。
 本研究成果は、この治療法が自閉症の中核症状である社会的相互交流を改善すること、発達期を過ぎおとなになってからでも効果を発揮しうることを動物実験で示しました。mTOR阻害薬はすでに抗腫瘍薬、免疫抑制薬として複数の国で認可されている医薬品であり、日本でも近い将来、結節性硬化症に合併する腫瘍の治療薬として認可される見込みがあります。今後、mTOR阻害薬を自閉症治療薬の治療薬として応用できる可能性は大きいと期待され、本研究成果を起爆剤としてトランスレーショナルリサーチ(基礎研究成果を臨床に実用化させる橋渡し研究)が加速することが期待されます。

4 発表雑誌

 雑誌名:「Nature Communications」(12月18日号)
 論文タイトル:Rapamycin reverses impaired social interaction in mouse models of tuberous sclerosis complex.
 著者:Atsushi Sato, Shinya Kasai, Toshiyuki Kobayashi, Yukio Takamastu, Okio Hino,Kazutaka Ikeda, Masashi Mizuguchi

5 問い合わせ先:

 公益財団法人東京都医学総合研究所依存性薬物プロジェクト
 電話 03-6834-2379
 ファクス 03-6834-2390

6 用語解説

 (注1)mTOR:mammalian target of rapamycinの略語。細胞内情報伝達をになう蛋白質で、その機能は結節性硬化症遺伝子産物TSC1、TSC2による調節を受ける。またラパマイシンなどのmTOR阻害薬により抑制される。
 (注2)結節性硬化症1型、2型:結節性硬化症の原因遺伝子はTSC1とTSC2の2つがある。したがって遺伝的には1型と2型に分かれるが、臨床症状は酷似している。
 (注3)PTEN:PTEN遺伝子変異は大頭をともなう自閉症の原因となる。
 (注4)FMR:FMR遺伝子変異は脆弱X症候群の原因となる。
 (注5)社会的相互作用試験:マウスをケージ内で飼い、新奇マウス(同性で初対面のマウス)と遭遇させて、匂いを嗅ぐ、追い回すなどの行動を観察する。
 (注6)S6K:p70 S6 kinaseの略語。mTORの調節を受けてリボソームS6蛋白の活性を制御する因子。

7 添付資料

表 結節性硬化症モデルマウスの社会的相互作用の実験結果

マウスの種類 正常(野生型)
マウス
結節性硬化症
モデルマウス
ラパマイシン なし なし あり
社会的相互作用試験 初対面マウスを追いまわす行動 多い 少ない 多い
立ち上がり行動 少ない 多い 少ない

問い合わせ先
公益財団法人東京都医学総合研究所依存性薬物プロジェクト
 電話 03-6834-2379
 ファクス 03-6834-2390

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