トップページ > 都政情報 > 報道発表 > これまでの報道発表 > 報道発表/平成24(2012)年 > 11月 > 都医学研 鎮痛・依存に影響する遺伝子配列の差異発見

ここから本文です。

報道発表資料  2012年11月28日  福祉保健局

鎮痛にも依存にも影響するヒト遺伝子配列の差異を発見
網羅的ゲノム解析の成果

 (公財)東京都医学総合研究所の西澤大輔研究員と池田和隆参事研究員らのグループは、東京歯科大学など15の他機関との共同研究において、網羅的なゲノム解析を行うことで、鎮痛薬感受性(効きやすさ)と依存重症度の両者に影響する遺伝子配列の差異を見出しました。この発見により、鎮痛薬の適量や重度の依存になるリスクを遺伝子検査によって予め知ることができるようになり、効果的、効率的な医療の実現に繋がると期待されます。
 なお、この研究は東京都からの運営費補助金により「がん・認知症対策」特別研究の一環として平成21年度から実施されているものです。
 この研究成果は、米国科学雑誌「Molecular Psychiatry(モレキュラー・サイカイアトリー)」の11月27日(米国時間)付オンライン版で発表されました。

1 研究の背景

 鎮痛薬に対する感受性には大きな個人差があり、痛みの治療をする上で大きな問題となっています。世界保健機関(WHO)によるがん性疼痛治療指針の五原則の一つに、「患者ごとに適量を求めること」が挙げられていることからも、鎮痛薬感受性が個々人で異なり、患者さんごとの鎮痛薬感受性を把握することが疼痛治療の現場においてきわめて重要であることがうかがえます。今までは、患者さんの鎮痛薬感受性は、時間、コスト、労力をかけた試行錯誤によって調べられてきました。
 また、依存の重症化にも大きな個人差があり、同じ依存性物質を同程度摂取しても、深刻な依存症に陥る人と、そうでない人がいて、治療や予防を行う上でも問題となっています。現在は、深刻な依存に陥るリスクがある人を見分けられないので、このような人たちはリスクを知らずに酒やたばこなど合法な依存性物質を摂取して深刻な依存症になったり、非合法の依存性薬物にまで手を出してしまったりする可能性があり、大きな社会問題を引き起こしています。

2 研究の概要

 この個人差が発生する原因の一つに、遺伝的要因(各個人の遺伝子配列の違い)があります。近年の遺伝子解析技術の進歩により、鎮痛薬感受性の個人差に寄与しうる遺伝的要因を特定することが可能になりました。西澤・池田研究員らのグループは、画一的で強い痛みが生じる下顎形成外科手術(※1)に注目し、その術後疼痛管理に必要な鎮痛薬量と患者さんの遺伝子多型との関連をゲノムワイド関連解析(GWAS)(※2)によって調べ、2番染色体長椀の2q33.3-2q34領域におけるrs2952768という遺伝子多型(※3)が手術後24時間におけるオピオイド性鎮痛薬(※4)の必要量と有意に関連していることを見出しました。次に、このrs2952768の遺伝子多型とオピオイド性鎮痛薬必要量との間に見出された関連性は、別の術式である開腹手術における術後疼痛においても再現されました。さらに、物質依存症患者及び他集団の健常者において、オピオイド感受性が低いと考えられるrs2952768多型のアレル(※5)保有者では、低い依存重症度の指標及びパーソナリティ質問紙における低い報酬依存スコアとそれぞれ関連していることも分かりました。この遺伝子多型は鎮痛や依存の個別化医療を実施する上で、最有力な遺伝子多型であると考えられました。事前に鎮痛薬必要投与量を予測して早期からの適切な疼痛治療を行ったり、事前に依存症が重症化しやすいかどうかを予測して予防や治療に役立てたりするなど、個々人の体質に合わせた疼痛治療及び依存症治療の発展が加速すると考えられます。

3 今後の展望

 現在東京歯科大学水道橋病院において下顎形成外科手術を受ける患者を対象として、今回発見したrs2952768多型及びこれまで同定した鎮痛薬感受性関連多型(Fukuda et al., Pain, 2009; Nishizawa et al., PLoS One, 2009)などを予測変数として、患者個々人に合った鎮痛薬投与量を予測するテーラーメイド疼痛治療を実施しています(2012年1月17日報道発表)。この実施例を調べることにより、今回同定したrs2952768多型に関する遺伝子検査が医療上有用であるかどうかの検証を行います。そして、がん性疼痛患者を対象としたテーラーメイド疼痛治療の実施も目指します。
 また、今回同定した2q33.3-2q34の遺伝子領域に存在するMETTL21A(FAM119A)及びCREB1の遺伝子等を対象として、それらの遺伝子がオピオイド感受性や依存重症度に影響するメカニズムの解明も進めます。

用語説明

※1 下顎形成外科手術

 うけ口などの歯の噛み合わせの問題を矯正する手術の一つ。患者は術前には痛みを持たない健常者であり、手術の術式は確立しており画一的な手術が施されるので同程度の痛みが加えられると考えられる。従って、術後の疼痛管理においては、鎮痛薬感受性の個人差がはっきりと表れる。

※2 ゲノムワイド関連解析(GWAS)

 特定の生物種の遺伝子全体のセットであるゲノムにおいて、全体的に散在する遺伝子多型(※3)の型を判定し、疾患その他の表現型(体質等)などとの関連性を解析する手法。

※3 遺伝子多型

 集団のゲノム塩基配列中で塩基配列が変異(置換、欠損、挿入)した多様性がみられ、その変異が集団内で1%以上の頻度で見られるとき、これを遺伝子多型と呼ぶ。

※4 オピオイド性鎮痛薬

 オピオイドとは、モルヒネ、ヘロインおよびそれらと類似する作用を有する物質の総称。オピオイド性鎮痛薬には、モルヒネ、フェンタニル、オキシコドンなどがあり、強い鎮痛作用を有する。

※5 アレル

 ヒトのゲノムは父母それぞれから1セットずつ受け取り、計2セットを持つが、そのゲノム上の各遺伝子座について父母それぞれから由来した遺伝子の配列が異なる場合、その各種類を対立遺伝子(アレル、アリル等)と呼ぶ。

参考図

GWASによるオピオイド感受性に関する有力候補遺伝子多型多型の同定

グラフ

 上の図では、オピオイド感受性に関するGWASの結果を示しています。横軸はゲノム中の二番染色体上の各遺伝子多型の相対的な位置、縦軸は各多型と下顎形成外科手術後24時間のオピオイド鎮痛薬必要量との関連性の解析結果における、各多型の関連性の強さを表しています。rs2952768多型が最上方にプロットされ、最有力候補多型であることがわかりました。

問い合わせ先
(公財)東京都医学総合研究所依存性薬物プロジェクト
 電話 03-6834-2379
(公財)東京都医学総合研究所事務局研究推進課
 電話 03-5316-3109

ページの先頭へ戻る