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報道発表資料  2012年8月22日  福祉保健局

―英国科学雑誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」において研究成果を発表―
パーキンソン病発症を抑える分子メカニズムを解明
病理解析や診断マーカーの開発につながる発見

 公益財団法人東京都医学総合研究所 松田憲之主席研究員と田中啓二所長らのグループは、立教大学理学部生命理学科の岡敏彦教授、徳島大学疾患酵素学研究センターの小迫英尊准教授らとの共同研究によって、細胞内でミトコンドリア(※1)の品質が低下した時に、その情報をPINK遺伝子が自己リン酸化(※2)を介して伝達することで、パーキンソン病(※3)の発症を抑えていることを、世界で初めて明らかにしました。本成果はパーキンソン病の新しい診断法・早期発見法の開発に寄与することが期待できます。
 この研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」の8月21日(英国現地時間)付オンライン版で発表されました。

1 研究の背景

 パーキンソン病は、神経伝達物質であるドーパミンを産生する神経細胞が失われることにより、安静時のふるえや歩行障害(すり足、小股、前屈姿勢など)、姿勢保持障害(例えば歩き出したり後方に引かれたりすると、止まれずに突進してしまう)、動作緩慢(字を書く、歯を磨くなどの細かい作業が困難になる)など様々な運動障害が起こる病気です。病状が進行すると自立した生活が困難になり、最終的に車いすや寝たきりの生活になる恐れがあります。日本国内だけでも15万人を超える患者がいる難治性の神経変性疾患(※4)であり、また高齢者ほど患者数が多く、65歳を超えると1%以上の人が罹患するといわれています。社会の高齢化が進むにつれて患者数は増え続けており、病気が発症する仕組みの解明と、早期診断法や根本的な治療法の確立が社会的に強く求められています。
 パーキンソン病にはいくつかのタイプがあり、発症原因も1つではないと考えられていますが、PINK1やParkinという遺伝子に変異が起こるとパーキンソン病が若くして発症します(遺伝性若年性パーキンソン病)。この場合、PINK1やParkinが働かなくなるとパーキンソン病が発症するので、PINK1やParkinが普段は“パーキンソン病の発症を抑えている”ことが判ります。
 田中所長らのグループは「PINK1とParkinの機能を調べればパーキンソン病の発症機構に迫れるのではないか」と考えて10年近く研究を続けており、2010年にはParkinとPINK1が協調して膜電位(※5)の低下した異常なミトコンドリアを処分していることを突き止めました。今回の研究では、その仕組みを分子レベルでより詳細に解明しました。

2 研究成果の概要

 松田主席研究員、田中所長らのグループは、ミトコンドリアの膜電位が失われるとPINK1が活性化されること、その活性化の引き金はPINK1が自分自身にリン酸を付加する自己リン酸化という現象であること、リン酸が付加される場所がPINK1のどこにあるのか、を世界で初めて明らかにしました。さらに、遺伝性パーキンソン病の患者では、このPINK1の自己リン酸化が停止していることも示しました。言い換えると、PINK1が細胞の中で「このミトコンドリアが異常です」という情報をどのようにして伝達するのかを、分子のレベルで明らかにしました。
 この経路が障害されると、どのミトコンドリアが「不良品」であるかという情報が細胞の中で正しく伝わらず、異常なミトコンドリアが処分されないために(※6)、脳内のミトコンドリアの品質が低下して、若くしてパーキンソン病が発症すると考えられます(図参照)。

3 発見の意義

 ひとつは遺伝性パーキンソン病の発症メカニズムの理解が進んだことです。今回の成果は遺伝性パーキンソン病に関するものですが、より一般的な孤発性パーキンソン病についても同様の仕組みが発症に関与している可能性は十分にあります。
 もうひとつは、新しいパーキンソン病の病理解析ツールや診断マーカーの開発につながる発見だということです。本研究ではPINK1の自己リン酸化部位を同定しているので、その部位を特異的に認識する抗体(※7)を作製すれば、遺伝性パーキンソン病のきっかけとなるような異常ミトコンドリアだけを検出できます。さらにより一般的な孤発性パーキンソン病においても、上記の“PINK1の自己リン酸化部位を認識する抗体”が早期の診断薬や病理解析ツールとして利用できると期待されます。

用語説明及び補足

※1:ミトコンドリア
 細胞の中に存在する区画化された器官(細胞小器官/オルガネラ)の一つ。細長い二重の袋状の構造体で、人間が生きていくために必要なエネルギー(アデノシン三リン酸:ATP)を産生します。細胞内のエネルギー産生工場(発電所)とも言われます。

※2:自己リン酸化
 細胞の中では、リン酸という物質を付けたり(リン酸化)、外したり(脱リン酸化)することで情報が伝達されます。リン酸を付ける働きを持つタンパク質をリン酸化酵素(キナーゼ)と呼び、PINK1はキナーゼの一種です。キナーゼが自分自身にリン酸を付加することを特に自己リン酸化と呼びます。

※3:パーキンソン病
 ふるえや手足のこわばり、歩行障害、動作緩慢、転びやすさなどの症状がある神経変性疾患のひとつ。治療は症状を緩和する薬物治療が中心で、様々な運動療法によるリハビリテーションと組み合わされることが多いです。根本的な治療法はまだ見つかっていません。

※4:神経変性疾患
 主に成人期以降に発症する脳の病気で、特定の神経細胞が異常になって死んでしまう(変性/脱落する)ことが原因です。パーキンソン病のほか、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病などがあります。

※5:膜電位
 ミトコンドリアでは膜(厳密には内膜)を隔てて外側がプラス(+)、内側がマイナス(-)になるように電気的な状態が保たれており、この電気的な差が膜を隔てた電位差(=膜電位)を産み出しています。膜電位は細胞内エネルギー(ATP)の産生に必須の役割を担っており、膜電位を失ったミトコンドリアは正常なエネルギー産生を行えない「不良品」です。

※6:異常なミトコンドリアの処分
 もうひとつの遺伝性若年性パーキンソン病の原因遺伝子産物であるParkin(分解の目印となるユビキチンを連結させる酵素で、2000年、田中所長らが世界で最初に証明)が異常なミトコンドリアの処分を担っています。簡潔に言うとPINK1はミトコンドリアが異常であるかどうかを調べて連絡する係、Parkinはその異常ミトコンドリアを消去する係です。そのことは2008年から2010年にかけて、本研究を行った田中所長/松田憲之主席研究員らのグループを含む国内外の多数の研究者によって証明されました。

※7:抗体
 免疫応答によって血液中に産生されるタンパク質。細菌やウイルスの感染を抑える働きが有名ですが、その実体は「特定の配列を持つタンパク質だけに結合するタンパク質」であり、分子生物学の分野では特定のタンパク質を特異的に高感度で検出する手段として用いられます。

模式図

PINK1がミトコンドリアの異常を伝える仕組み
 正常な状態では、PINK1がリン酸化を介してParkinに信号を伝えることで、細胞内の異常なミトコンドリアが除去される。一方で、この機構が破綻すると異常なミトコンドリアが徐々に蓄積し、パーキンソン病の発症に至る。

問い合わせ先
公益財団法人東京都医学総合研究所蛋白質代謝研究室
 電話 03-5316-3123(2720)
公益財団法人東京都医学総合研究所事務局研究推進課
 電話 03-5316-3109

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