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報道発表資料  2012年6月8日  福祉保健局

グルタミン酸受容体(NMDA型)のMg2+イオンによる
学習・記憶のメカニズムを解明
アルツハイマー病や老化による記憶力低下のメカニズム解明に期待

 (公財)東京都医学総合研究所の宮下知之研究員、齊藤実参事研究員らは、記憶を長期間維持するために、マグネシウムイオンが、記憶や学習に重要な役割をもつNMDA受容体の情報伝達経路をブロックしているメカニズムを、ショウジョウバエを用いて、世界で初めて明らかにしました。
 老化やアルツハイマー病にみられる記憶力の低下の原因の一つには、特にNMDA受容体の機能不全が考えられています。今回の結果から、アルツハイマー病や老化による記憶力低下のメカニズムの一部が明らかになることが期待できます。なお、この研究は、首都大学東京、東京薬科大学との共同研究での成果です。
 この研究成果は、米国科学雑誌「Neuron(ニューロン)」の6月7日正午(米国東部時間)付オンライン版で発表され、さらに6月7日(米国東部時間)発行の「Neuron(ニューロン)」に掲載されました。

1 研究の背景

 グルタミン酸受容体の一つであるNMDA受容体は、記憶や学習に重要な役割を持っていることが知られています。NMDA受容体は、グルタミン酸を受け取ると、細胞の中にカルシウムイオンを取り入れて学習記憶に必要な生化学的反応を起こします。しかし普段カルシウムイオンが通る部分は、マグネシウムイオンが塞いでおり、カルシウムイオンが入りません。神経細胞が別の受容体の活性化などで興奮した時だけマグネシウムイオンが外れます。このことから、「パブロフの条件付け」のような連合学習のスイッチと考えられてきました。しかし、マウスなどの哺乳類での実験が困難なこともあり、実験的な証明はほとんど行われてきませんでした。

2 研究の概要

 記憶を長期間維持するためには、神経細胞内で遺伝子の活性化が必要です。今回、遺伝子操作をおこないマグネシウム阻害がおこらないショウジョウバエを作成して、パブロフ型条件付けで連合学習を調べたところ、正常に学習していました。一方、CREBといういろいろな遺伝子を活性化するタンパク質について調べると、神経細胞内で遺伝子を活性化できない“抑制型”CREBが増加しており、長期の記憶の維持に必要な遺伝子が抑制されていることが明らかになりました。このことから、NMDA受容体のマグネシウムによる阻害は、余分なカルシウムイオンの流入を防ぎ、“抑制型”CREBの増加を抑えるためであることが分かりました。

3 今後の展望

 アルツハイマー病の治療薬の一つであるメマンチンは、NMDA受容体に対しマグネシウム阻害と同様な作用を持っていることが知られています。さらに脳の中に長期間とどまるように工夫されたマグネシウムイオン(マグネシウム L-スレオネート)も老化による記憶力の低下を防ぐことから、アルツハイマーの治療薬として期待されています。生体内のマグネシウムイオンの恒常性については、まだまだわかっていないことがありますが、今回の研究の結果から、老化による記憶低下や、アルツハイマー病のメカニズムの一部が明らかになることが期待できます。

【用語説明】

※1 グルタミン酸受容体(NMDA受容体)
 哺乳類において、脳の主要な神経伝達物質であるグルタミン酸によって活性化し、神経細胞内の生化学的反応を起こす。NMDA受容体はグルタミン酸以外にもNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)という薬でも活性化することからその名前が付いた。NMDA受容体が活性化すると、細胞内にカルシウムイオンが流入する。カルシウムイオンの流入は神経細胞内のあらゆる生化学的反応の起点と考えられている。

※2 連合学習
 パブロフの古典的条件付けに代表される、学習の一形態。食べ物を与える時にベルを鳴らすと、食べ物とベルの音を関連させて学習するため、ベルの音だけで食べ物を連想できる。このように従来関係ない二つの物や出来事を関連させて憶えること。

※3 CREB (cAMP response element binding protein)
 細胞内の核にあるDNAに作用して、DNA上に書かれている遺伝子情報を読み出すタンパク質を転写因子という。転写因子のひとつであるCREBは、長期的に維持される記憶を作り出すのに必要な遺伝子情報を読み出すことが知られている。

【参考図】

NMDA受容体のイメージ

イメージ
問い合わせ先
(公財)東京都医学総合研究所
学習記憶プロジェクト
 電話 03-6834-2425
事務局研究推進課
 電話 03-5316-3109

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