報道発表資料 [2016年2月掲載]

ステロイド抵抗性・依存性の腸管急性移植片対宿主病に対する便細菌叢(そう)移植(FMT)の安全性及び有効性について

平成28年2月29日
病院経営本部
駒込病院

 当院の垣花 和彦 血液内科医長は、慶應義塾大学、理化学研究所、東京大学、岡山大学、及び国立がん研究センターと共同で、同種造血幹細胞移植後に発症したステロイド抵抗性・依存性腸管急性GVHD(graft-versus-host disease:移植片対宿主病)に対する便細菌叢移植(fecal microbiota transplantation: FMT)の臨床研究(パイロット研究(※1))を実施し、その安全性と有効性に関するデータを蓄積しました。本成果は、3月に開催される第38回日本造血幹細胞移植学会で発表する予定ですのでお知らせいたします。
 今後、症例数をさらに増やして有効性を検討する臨床研究を実施することで、FMTが腸管急性GVHDの新たな治療法となることが期待されます。

1 背景

 骨髄移植に代表される同種造血幹細胞移植(以下「移植」という。)は、白血病など難治性の血液疾患に対し唯一根治が期待できる治療法であるが、移植移片対宿主病(以下「GVHD」という。)等の合併症が発生することがある。GVHDは、移植したドナーの血液細胞が患者の体を「異物」と認識することで発症する合併症で、急性GVHDは皮膚・腸・肝臓が標的となり、腸管急性GVHDでは、重症化すると大量の下痢を来たす等、時に致命的になることもある。この治療には主にステロイド剤を使用するが、効果を認めるのは約半数で、ステロイド剤の効果を認めない場合の治療法については、まだ確立されていない。また、仮に治療が成功しても、長期間にわたる強い免疫抑制から感染などの合併症が増えることが懸念される。
 近年注目を集める腸内細菌叢(腸内フローラ)(※2)について、移植領域においてもGVHDとの関連を示唆する報告があり、当研究グループでも早い段階からGVHDと腸内細菌との関連に注目し検討を進め、同種造血幹細胞移植後の腸管急性GVHD患者に対する便細菌叢移植(以下、「FMT」という。)実施の安全性及び有効性について当院主導の臨床研究(パイロット研究(※1))を実施することとした。

2 結果

 ステロイド治療に反応が悪い患者、もしくはステロイド治療に一旦は反応するものの、減量に伴い再び悪化し、ステロイドの減量が難しい患者4例を対象にFMTを実施した。その結果、FMTに関連すると思われる合併症はいずれも軽度かつ一時的なもので、移植患者に対しても安全に実施できることが分かった。また、3例において腸管急性GVHDの症状が完全に消失し、1例においては下痢の量が最大5分の1まで減少し、全ての症例において効果が見られた。3例ではFMT後4週間で、ステロイドを平均69%減量することができた。
 さらに、FMT後GVHDが改善傾向にある時期には、細菌叢の組成も改善傾向にあることや、免疫学的にも炎症が落ち着く方向に変化していることが確認された。これらのことは、FMTにより腸内細菌の組成が改善し、免疫を調整することで、GVHDが改善に向かうことを示唆している。

3 意義

 FMTが移植患者に対して安全に実施できることが証明された。また、FMTが腸管急性GVHDの症状を改善させ、新たな治療法となりうる可能性があることが示唆された。

4 今後の予定

 症例数をさらに増やして有効性を検討する臨床研究を実施するとともに、どのような細菌(群)がFMTの効果に影響しているかを明らかにしていく。

用語注釈

※1パイロット研究は、本格的に検証する大規模臨床研究の前に、その実現可能性を検討するために行う小規模臨床研究を指す。
※2 腸内細菌叢は、腸内フローラとも呼ばれ、腸内に常在する多種多様な細菌の生態系を指す。近年の研究により、腸内細菌叢が腸炎のみならずアレルギー疾患や生活習慣病にも関与していると考えられている。

問い合わせ先
駒込病院事務局庶務課
 電話 03-3823-2101