報道発表資料 [2013年8月掲載]

大脳基底核と前頭連合野の連携による高次脳機能の仕組みを発見
行動の目的決定と動作選択に新たな知見

平成25年8月22日
(公財)東京都医学総合研究所
福祉保健局

 (公財)東京都医学総合研究所の星英司プロジェクトリーダーの研究チームは、目的ある行動を達成するために大脳基底核が前頭葉と連携するための基本原理を発見しました。
 脳の深部にある大脳基底核は前頭葉と密接にやり取りをしていることが知られており、この連携が行動を支える様々な局面において重要な役割を果たすと考えられてきました。動作の実行における大脳基底核と前頭葉の運動野の連携については、パーキンソン病(※1)にともなう運動症状を調べることを中心に理解が進んでおります。一方で、大脳基底核はヒトで発達した前頭連合野ともやり取りをしており、高次脳機能(※2)への関与が示唆されておりましたが、その実態は不明でした。そこで本研究では、認知行動課題を行っているサルの大脳基底核と前頭連合野の神経活動を比較することによって、この回路の機能解明に取組みました。その結果、大脳基底核が目的決定や動作選択の節目を捉えて情報を処理し、前頭連合野が処理結果を保持するという特徴が明らかとなりました。これは、大脳基底核と前頭連合野が連携することによって初めて「決定や選択」と「結果の保持」という高次脳機能の二大要素が達成されることを示します。こうした基本原理は、大脳基底核と前頭連合野の連携の解明、ならびに、機能不全による高次脳機能障害(※3)の病態解明の重要な手がかりとなります。
 この研究成果は、米国神経科学学会誌「The Journal of Neuroscience」8月21日(米国東部時間)付オンライン版に掲載されました。

1 研究の背景

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図1 前頭葉と大脳基底核をつなぐ複数のループ回路

 大脳基底核は脳の深部にあり、行動制御において中心的な役割を果たす前頭葉と複数のループ回路を形成しております(図1)。
 前頭葉の後方部には一次運動野があり運動実行において主要な役割を果たします。一次運動野が大脳基底核と形成するループ回路(運動系ループ、図1の青→)の動作実行における機能については理解が進んできております。これに対して、前頭葉の前方部にある前頭連合野(前頭前野、高次運動野)も大脳基底核とループ回路(連合系ループ、図1のオレンジ→)を形成しております。この連合系ループは高次脳機能において重要な役割を果たすことが示唆されます。しかし、その連携の実態は不明でしたので、その解明を目指して本研究を行いました。


2 研究の概要

 行動の目的決定と動作選択といった高次脳機能の達成過程において、大脳基底核と前頭連合野が連携する過程を調べることにしました。これは、日常生活の行動をヒントに考案されました。私たちは赤信号を見ると、止まることを行います。自転車を運転している場合にはブレーキレバーを握ることを、自動車を運転している場合にはプレーキベダルを踏むことを行います。従って、赤信号によって指示された「止まる」という目的を、適切な動作を選択することによって達成するとみなすことができます。そこで、目的決定と動作選択を調べるために、新しい認知行動課題を開発しました(図2)。
 サルの前にモニターを置き、最初に、色のついた図形(黄色い四角や、青いプラスなど)を指示として提示します。次に左右に並んだ2つのカードを見せ、1つを選んで押してもらいます。ここで、たとえば“黄色い四角”なら右のカードを、“青いプラス”なら左のカードを押すと、サルはジュースがもらえます。こうした課題により、カードの左右を決めること(目的決定)と、実際に手を伸ばしてカードを押す動作を選ぶこと(動作選択)に関連する神経活動を調べることを可能としました。
 この課題を行なっているサルの前頭連合野と大脳基底核の神経活動を記録しました。数千個の神経活動の特徴を統計解析したところ、大脳基底核と前頭連合野の双方が目的決定と動作選択に関与することが明らかとなりました。しかし、以下の点において、その関与の仕方が本質的に異なることが見出されました(図3)。
○大脳基底核は目的決定や動作選択を行う節目において選択的に情報処理に参加する。
○前頭連合野は、決定された目的や選択された動作を、その後の動作選択や動作実行のために保持する。
 高次脳機能を達成するにあたって、「決定や選択」と「結果の保持」という二つの要素が重要となります。今回発見された役割分担は、大脳基底核と前頭連合野が連携することによって初めて「決定や選択」と「結果の保持」の両者が達成されることを明らかとしました。

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図2 認知行動課題 図3 まとめ(|は神経活動を示す)

3 今後の展望

 こうした新知見を踏まえて研究を発展させることにより、ヒトで高度に発達した高次脳機能の神経基盤を前頭連合野だけでなく大脳基底核による情報処理も含めたかたちで、より深く理解できるようになります。さらに、今回の新知見は、大脳基底核の疾患による高次脳機能障害の病態を解明するための重要な手がかりとなります。
特に、誘発された高次脳機能障害が、情報処理の節目における障害として捉えられる可能性を示唆します。

4 研究支援

 本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「脳神経回路の形成・動作原理の解明と制御技術の創出」研究領域における研究課題「霊長類の大脳―小脳―基底核ネットワークにおける運動情報処理の分散と統合」(研究代表者:星英司)、科学研究費補助金、玉川大学GCOEプログラムの支援を受けて行われました。

5 論文

 著者:Arimura, N., Nakayama, Y., Yamagata, T., Tanji, J., Hoshi, E.
 (有村奈利子、中山義久、山形朋子、丹治順、星英司)
 タイトル:Involvement of the globus pallidus in behavioral goal determination and action specification.
 (行動の目的決定と動作選択における淡蒼球の関与)
 掲載誌:The Journal of neuroscience : the official journal for the Society for Neuroscience
 (ジャーナル オブ ニューロサイエンス:米国神経科学学会誌)

用語説明

※1 パーキンソン病
 大脳基底核のドーパミン不足による疾患であり、安静時振戦、筋固縮、寡動、姿勢保持反射障害などの運動症状を主とする。
※2 高次脳機能
 記憶、注意、意思決定、行動計画とその遂行などの認知的な脳情報処理過程のこと。前頭連合野はその機能の中心的な役割を担っている。
※3 高次脳機能障害
 脳血管障害や交通事故による脳損傷、低酸素脳症や脳炎などによって脳に機能脱落が生じ、高次脳機能が障害されること。また、障害により日常生活が制限されること。感覚機能や運動機能の障害とは区別される。記憶障害、注意障害、失語症、遂行機能障害などがある。

問い合わせ先
(公財)東京都医学総合研究所前頭葉機能プロジェクト
 電話 03-6834-2373
(公財)東京都医学総合研究所事務局研究推進課
 電話 03-5316-3109