報道発表資料 [2007年5月掲載]

「今、思春期の子供たちはどのように生きているのか」
−意識調査からとらえた実態−

平成19年5月28日
教育庁

 東京都教育相談センターは、子供たちの命にかかわる事件が相次ぎ、また、相談の中で、子供が悩みや不安を強く感じている状況を踏まえ、思春期の子供たちが、どのような思いで毎日を過ごし、困ったり、悩んだりした時にどのように乗り越えるかについて実態調査を行い、その結果を取りまとめましたので、お知らせします。

【調査結果の特徴】

  • 支えになっているのは、家族と友だち。
  • 悩みを抱えたとき、がまんしたり、あきらめたりする子供は5割、3割の子供が体調を崩し、2割の子供が危惧される対処行動を選ぶ。
  • 周囲から支えられない状況で不安感が高まると、引きこもったり、自分を傷つけたりする。

1 調査方法

(1)調査名 「思春期の心理と行動に関する意識調査」
(2)調査時期 平成18年8月〜10月
(3)調査対象 都立高校生 1,485名 都内公立中学生 2,009名 計3,494名

2 研究概要

 別紙のとおり

3 今後の取組

 子供がどのような対処方法をとって悩みや心配を乗り越えるかについて、臨床的知見を加えて研究し、子供たちへのかかわり方を究明する。

※別紙 研究概要

問い合わせ先
東京都教育相談センター
 電話 03−5800−8299

〔参考〕

研究のまとめと今後の課題

(平成17〜18年度研究報告書「今、思春期の子供たちはどのように生きているのか−意識調査からとらえた実態―」 抜粋)

1 思春期の子供たちの心理

(1)「不安・抑うつ感」は高く、「自己肯定感」は低い

 思春期の子供たちは自我の確立期にあたり、日々の生活の中で、不安や葛藤を抱えている。また、個人の中で、その不安や葛藤がふくらむと抑うつ的になったり、さまざまな問題行動に発展したりすることがある。
 今回の調査では、子供たちが日常的にこのような「不安・抑うつ感」をどのように感じているかをとらえた。調査結果から子供たちは、高い不安・抑うつ感を感じており、発達的にみると中学生よりも高校生の方が「不安・抑うつ感」が強まっている。思春期の課題を解決する過程で、中学から高校にかけて徐々に課題は難しくなり、葛藤も複雑になり、不安・抑うつ感が高まっていくと考えられる。
 他方、「自己肯定感」は全般的に低いという結果であった。既に言われている「諸外国に比べ日本の子供たちの自己肯定感は低い」13)という結果と同様であった。
 また、今回の調査では、「自己肯定感」においては、発達的な違いはみられなかったが、顕著な男女差がみられ、女子の方が自己肯定感が低かった。
 このように、「不安・抑うつ感」が高く、「自己肯定感」が低いという結果は、現代の思春期の子供たちの一面を表わしていると言える。

(2)「自暴自棄感」は低く、必ずしも「攻撃性」が強いとは言えない

 「不安・抑うつ感」が極度に高まると、心理的に追いつめられ、生と死にかかわる問題として、現れることが予測される。普段何気なく学校に通っている子供たちの心の奥にも、そのような心理が存在すると考えられる。そこで、このような心理的状況を明確にするために、「自暴自棄感」と「攻撃性」について調査したところ、「自暴自棄感」は全般に低い結果が示され、子供たちの健全さを示す結果となった。
 「攻撃性」については、この調査において最も正規分布に近い状況が示され、中学・高校生の攻撃性は、必ずしも強いとは言えないことが分かった。そもそも攻撃性は、いわゆる敵意を有した破壊性という側面だけでなく、不満やうまくいかなさの解決のための非敵対的で建設的な行為も含まれるので、「攻撃性」をその子供のもっているエネルギーとしてとらえ、その発露となる方向性について注意深く見守っていくことが必要である。

(3)支えになっている「家族」と「友だち」

 対人関係のあり様が、思春期の意識にどのような影響をもたらしているか。
 対人関係の基本である家族については、「家族親和感」が全体に高い状況にあり、性別では女子の方が高く、家族の中での安定感があり、コミュニケーションが図られていることが分かった。このことについては、90年代はじめに高校生に実施した意識調査28)でも2000年の意識調査でも同様の結果を得ている。今日、児童虐待族・家庭は一段と厳しい状況に置かれている。しかしながら、子供たちはなおのこと家庭に安らぎを求めている。思春期の子供たちは、親・家族からの自立をめざして、拒否的になったりすることもしばしばあるが、親・家族にきちんと受けとめられ、家庭が安心できる場所になっていることが、思春期の課題解決において重要である。
 「友だち友好感」としてとらえた友だちに対する親密度は、発達的な特徴より、男女に明らかな差が見られた。中学生女子の複雑な仲間関係にみられるように、その関係の中で人を求め、支えられ、また傷つけられる経験も含めて、友好的な関係をもつことで、悩みや不安に対して解決行動をとることができると考えられる。相談できる人がいる、また、おしゃべりやメールをする友だちがいるという、日常的な友だち関係が重要であり、友だち関係の中で、エネルギーを充当し、困難な状況へも立ち向かっていくことが可能になると推測される。

2 思春期の子供たちが悩みをかかえた時の対処方法

(1)おしゃべりやメールで発散する子供は6割強、誰かに相談する子供は5割

 心配事や悩み事に対して、思春期の子供たちはどのように対処しようとしているのか。調査結果から、大方の子供は自分でどうすればよいかを考えるが、ボーッとしたり、何もしたくなくなったり、イライラして動けずに、困った状況に陥ってしまう子供がいる。子供たちは、その無活動の状況を経て、行動を展開していくと考えられる。
 そして、6割強の子供たちは友だちとおしゃべりをしたり、メールをしたり、趣味に夢中になったりすることで発散している。また、半数の子供たちは誰かに相談をするという解決行動をとっている。しかし、「誰かに相談する」割合が半数と言うことは、他の半数の子供は相談しないということである。
 その様相を考えると、他の人に相談するか否かという問題は、悩み事や心配事の種類(内容)や重さに関係すると考えられるので、さらに、検討する必要がある。

(2)がまんしたり、あきらめたりする子供は5割、3割が体調を崩し、2割は危惧される対処方法を行う

 約5割の子供は「がまんする」、「悩んでいることを人に知られないようにする」、「仕方がないとあきらめる」という内閉や諦観を示す自己統制の領域の行動を選択している。
 特に「悩んでいることを人に知られないようにする」ことは、思春期特有のナイーブさを示している反面、内容によっては、誰にも相談できずに追いつめられる事態になることが推測される。
 また、3割の子供が体調を崩し、2割前後の子供が自分を傷つけ、やけ食いをするという状況も、非常に憂慮すべきことと考える。意識のレベルで思うことと、現実に行動化することの間には、ギャップやタイムラグがある。しかしながらこのような思いを抱えたまま孤立し、誰にも伝えられず、行動化が加速していくことを見逃すことはできない。

3 思春期の心理と対処方法との関連

 思春期の子供たちが日常感じている意識と、心配事や悩み事への対処方法との関連を見ると、心配事や悩み事に対して、誰かに相談するなど解決行動は、「家族親和感」「友だち友好感」と関連があった。誰かに相談することができるのは、基本的に対人関係の中で親和的な経験をしていることが必要である。逆に対人関係の中で辛い経験をしている子供は相談がしにくいことが推察される。
 また、心配事や悩み事に対して、人にあたる、物にあたる、自分を傷つけるなど、自分あるいは他者への攻撃行動は、「不安・抑うつ感、」「攻撃性」「自暴自棄感」と関連があることが分かった。さらに、がまんしたり、悩んでいることを人に知られないようにしたり、仕方がないとあきらめたりする自己統制的行動は、「不安・抑うつ感」、「自暴自棄感」と関連があることがわかった。攻撃的な行動だけでなく、外見には見えにくい抑制的な行動は、不安・抑うつ的な心理は推測されても、自暴自棄的状況は推測されにくい。
 また、何もしたくなくなったり、何も考えられなかったり、体調がくずれるなど無気力になり、無活動で、身体的にも症状に出てくる子供たちの心理的状況も、「不安抑うつ感」、「攻撃性」、「自暴自棄感」の存在が伺われ、気がかりな状況であり、改善の方途をさらに明らかにする必要がある。

4 「生」に関する課題を抱える「気がかりな子供たち」へのかかわり

 本研究の中では、思春期の子供たちの全般的な傾向をとらえるとともに、調査の結果から「気がかり群」を設定し、検討してきた。不安・抑うつ感が高く、自暴自棄で、家族や友だちから十分に支えられていない「気がかり群」の子供たちは、自分自身を肯定的にとらえることが難しく、攻撃性が高い。
 昨今、「いじめを苦にしての自殺」という衝撃的な状況が続いている。気がかり群として設定した子供たちの内面は、いじめを苦にしての自殺した子供たちの内面にもつながるものが皆無とは言えない。周囲から十分には支えられず、いわば孤立した状況のなかで、自信がもてず、不安感が高まり抑うつ状態になって、自暴自棄感が強まり、攻撃性が負の方向に向かうことになれば、「自分を傷つける」ことにつながる可能性がある。
 そのような子供の状況を、また子供の内面を、周囲はどうすればとらえられるのか。子供たちの抱える、なかなか表現されない、内的な葛藤や思いをどのように受けとめていくかが、今後周囲の大人たちに課せられた責務であり、そのための手立てを講じることの重要性を再確認した。

5 今後に向けて

 2年間にわたる本研究において、思春期の子供たちの生を巡る意識をとらえてきたが、調査結果からタイプ分けして示す等、さらに検討を深めていきたい。また、一人の子供がどのような対処方法を駆使しているのかに迫れれば、思春期という心理的に困難な時期にどのように向かい合い、乗り越えていこうとしているのかがみえてくると考える。さらに、当センターにおける臨床的な知見を加えて、子供たちへのかかわりを究明する。