知事の部屋

 
猪瀬都知事「知事の部屋」
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活動の紹介

平成25年6月3日更新

平成25年第二回都議会定例会知事所信表明

 平成25年第二回都議会定例会の開会に当たりまして、都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会の皆様と都民の皆様のご理解、ご協力を得たいと思います。

 ただいま、多年にわたり都政に貢献された比留間敏夫議員、宮崎章議員が表彰をお受けになりました。お二人の、都政の発展に尽くされたご功績に対して、深く敬意を表し、心からお喜び申し上げます。

1 来るべき決戦に向かって(ディスカバー・トゥモロー)

 「オリンピックは人類の持っている夢のあらわれであります」
 この市川崑さんが総監督をした記録映画の名作「東京オリンピック」の冒頭に映る言葉は、全ての人々に夢を贈るオリンピックの力を端的に表したものだと思います。
 1964年のオリンピック、あの頃の日本は、変化を恐れず、新しいものに挑戦する、国中がそんな気風に満ちていました。人々は、日本の成長と自らの生活の向上を心の中で重ね合わせながら、それぞれの夢に向かって懸命に駆け上がったのです。
 あれから半世紀が経ち、私たちは、世界でも類まれな、豊かな社会を築き上げました。しかし、地球温暖化、エネルギーの問題、急速に進む少子高齢化など数々の困難に直面し、経済的には新興国から猛追を受け、人々の心の中には、行き詰まり感が充満しています。そして、何よりも一番の問題は、多くの日本人が、未知なるものに挑戦し困難を乗り越えようとする前向きな気持ちを欠いていることなのです。
 今、安倍総理は、脱デフレの経済政策を展開しています。効果を上げていると思います。人々の気持ちも一緒に前向きになれば、日本はもっと明るくなると思います。
 世界のフロントランナーとなった私たちは、自分で新しい未来をつくらなければならない。我々の先には誰もいないからです。だからこそ、2020年大会のビジョンは「ディスカバー・トゥモロー」なのです。何としても招致を勝ち取り、自らの手で自分の未来を掴み取る気概、自信と希望を日本人の中に取り戻していきます。

(世界を舞台にした招致活動)

 私は、昨日、ロシアのサンクトペテルブルクから、帰ってきました。あらゆるスポーツの国際団体の代表が一堂に会し、IOC委員の4割が参加する「スポーツアコード会議」に、フェンシングの銀メダリストである太田雄貴選手らと共に出席してまいりました。会議参加者がオリンピック・パラリンピックに寄せる一番の期待は、関心は、「アスリートがベストコンディションで競技に臨むことができ、大会を最も高いレベルで開催できる都市はどこか」ということです。そのために、現地では「アスリートファースト」に重点を置いた活動を行いました。アスリートたちが時間どおりに競技会場に移動できる世界トップクラスの輸送システム、良好な治安、多様な食文化など東京の強みと魅力をアピールしてまいりました。さらに、強固な財政基盤など開催計画を確実に実行し、大会を成功に導く高い実現能力と、東京がオリンピック・ムーブメントに積極的に貢献する決意を、そして東京ならではのホスピタリティを、競技団体の幹部やIOC委員にパッション、情熱を持って訴えました。プレゼンテーションだけではなく、記者会見、現地の関係者を招いた懇談会、その他様々な場面で、東京を宣伝してきました。
 帝政ロシアの首都であったサンクトペテルブルクは、18世紀の雰囲気を残した、モスクワに次ぐ大都市であります。人口500万人です。ポルタフチェンコ知事に東京招致への応援をお願いし、さらに、観光振興や廃棄物処理の分野で両都市が交流していくことになりました。
 今回の招致活動を通じて、今後の参考となる貴重なアドバイスも多く聴くことができました。非常に充実したものであったと思っております。
 先般のニューヨーク出張では、ブルームバーグ市長と会談し、東京の招致活動に力強いエールを送っていただきました。ニューヨークを訪れる中で、未来の課題は常に都市からはじまるという思いを改めて強くいたしました。今後、世界の主要な都市との二都市間の交流も強化してまいります。互いに持つノウハウを共有することで、都市問題の解決に積極的に貢献していきたいと思います。
 ニューヨーク訪問中に、ボストンマラソンで爆弾テロ事件が起きました。卑劣なテロ行為を絶対に許すことはできません。亡くなられた方々に心より哀悼の意を表するとともに、負傷された方々にお見舞い申し上げます。東京の治安は誇るべきものと自負しておりますが、首都を預かる最高責任者として、気を緩めることなく、こうしたリスクに対しても必要な対策を講じてまいります。

(最後の最後まで)

 来月、スイスのローザンヌで開かれるテクニカルブリーフィングに出席いたします。東京がIOCのベストパートナーであることを委員全員に直接訴えることができる大事な場であり、全力を尽くしてまいります。7月25日には八戸から東京までをランニングと自転車で駆け抜ける「未来(あした)への道 1000キロメートル縦断リレー」が出発します。
 2020年の聖火リレーの姿を頭に思い浮かべながら、被災地を元気づけていきたいと思います。
 9月7日の開催都市決定まで100日を切りました。マラソンで言えば、30キロを超えたぐらいの地点であります。これからの10キロが正念場です。最後の最後まで攻め抜いていきます。攻めて、攻めて、攻め抜いていきます。この戦いは、政府、経済界、スポーツ界など国家を挙げた総力戦であります。都民・国民の皆様、都議会の皆様の力強いご支援をよろしくお願いいたします。

2 東京のプレゼンスを高める

(東京が牽引する日本の成長戦略)

 先程も少し触れましたが、安倍政権が進める脱デフレ政策の一本目の矢である金融政策に市場は敏感に反応し、株価も上昇するなど、経済の雰囲気は変わってきています。財政政策の要である政府の15か月予算のうち平成25年度の本予算も、先般、成立しました。本定例会では、政府の緊急経済対策に呼応した補正予算案を提案しております。新たに創設された「地域の元気臨時交付金」などを活用しながら、公共事業を早期に実施することで、景気を支え、雇用の創出にも繋げていきます。そして、三本目の矢である成長戦略は、日本の心臓である東京の成長なくして、成り立ちません。東京都は、上下水道、病院、消防、地下鉄やバスなど多くの現場を持っています。その東京が、安倍政権が投げたボールを受け止め、それをさらに深掘りしていきます。
 都市での活動を妨げる要因を取り除き、ヒト・モノ・資本・情報を惹きつけ、世界の活力を取り込むことで、日本全体が潤います。そのために、東京が進めているのがアジアヘッドクォーター特区であります。先月、この特区のバージョンアップを訴えるために安倍総理に会い、政府の産業競争力会議にも出席してまいりました。
 海外企業の日本進出に当たって、まず障壁となっているのが、高い法人実効税率です。特区内に業務統括拠点などを置く外国企業に対して、平成23年度に40.7%であった税率を、この4月に28.9%に引き下げており、復興増税終了後の平成27年度からは26.9%にすることが、既に決まっています。これをさらに、ソウルや上海を下回る20.2%にまで下げるよう、政府と交渉を進めています。
 外国人が海外に赴任する場合には、通常、単身ではなく家族で赴任します。家族で生活しやすい環境も整えなければなりません。医療面では、世界標準の質を保証するJCIという国際評価があります。現在、都内で2つの病院が取得していますが、これを大幅に増やしていきたいと思います。また、特区内のエリア内に配属する救急隊の英語による対応能力を高めていきます。親にとって最も気掛かりな子供の教育については、特区内へのインターナショナルスクール誘致など教育環境の充実に取り組みます。
 また、建物の容積率にインセンティブを与えるなどの手法を用いて民間開発を誘導し、国際的な中枢業務拠点、外国人向けの生活相談機能、魅力ある文化拠点など良好な都市環境を整えてまいります。
 さらに、産業競争力会議では、「日本の標準時間を2時間早める」という大胆な提案をしました。世界の一日のお金の流れが日本から始まることで日本経済が活性化すれば、雇用にも消費にもプラスになると思います。「時間を司る」ことは、今や国家戦略でもあるのです。政府には、この国の将来のため、禁忌のない議論を期待しています。

(東京の都市力を高める、利用者本位の新しい交通政策)

〈時間という市場を開発する〉
 同時に、東京の交通システムの利便性を国際水準に引き上げなければなりません。ニューヨークも、ロンドンも、パリも、地下鉄の運営は一元化され、バスは24時間動いています。東京でも、都営バスの六本木と渋谷を結ぶ路線で、今年中に24時間運行を始めることにしました。
 なぜ、この決断をしたのか。世界のビジネスは24時間動いているからです。しかし、それだけではありません。私たちのライフスタイルに一石を投じるためでもあります。バスや地下鉄が24時間動いている欧米の都市では、「仕事が終わった後、夜遅くまでオペラを見て、その後、レストランに行く」、それが日常の光景です。日本のように終電を気にすることはありません。夜をゆとりある時間に変えることで、東京の新しい可能性を引き出してまいります。人生を充実させるためには、ワークライフバランスが大切です。「日本の標準時間を2時間早める」という提案をしたのも、「時間は有限ですが、可能性は無限」であるからです。時間という市場を開発できれば、プライベートも充実し、内需の拡大にも繋がって、東京の魅力にさらに磨きがかかると思います。
 現在、私鉄のバス会社は、終電後に郊外へ向かう深夜バスを運行しています。これも、時間の新しい可能性です。今後、そうしたバス路線と都営バスをターミナル駅で接続させるなど、幅広い視点から検討を進め、東京の都市力向上に活かしてまいります。

〈地下鉄一元化の思想〉
 稠密に張り巡らされ、安全かつ正確な東京の地下鉄網は、世界の大都市と競争する上で最大の武器であるはずですが、二つに分かれているがゆえに、利用者は二重運賃や乗り換えでの不便を強いられ、持てる力を十分に発揮できておりません。
 歴史を紐解けば、昭和16年、当時、鉄道省の官僚で、後に総理大臣となる佐藤栄作が主導した陸上交通事業調整によって、東京メトロの前身である帝都高速度交通営団が、東京の地下鉄を独占することになりました。同時に、東京中心部のバスと路面電車は、東京市に一元化されました。今の都営バスと都電であります。そして戦後、東京都は都議会と共に、一体的・効率的な交通体系を確立するため、地下鉄を含めた首都の交通一元化を政府に求めてまいりました。しかし、高度経済成長時代の急激に増大する交通需要に対応する必要から、東京の地下鉄は、営団と後発組である都営の二元体制になったままです。
 地下鉄のネットワークが概成した今、都営地下鉄の経営も黒字となり、社会状況も当時とは大きく変わりました。我が国は人口減少社会に突入し、東京の人口も2020年には減少に転じると見込まれています。鉄道の経営も当然、効率化しなければなりません。少子高齢化によって、バスへの期待も高まってくると思います。駅やその周辺のバリアフリー化を進めるなど、バスと地下鉄の乗り換えをさらに便利にしていく必要があります。首都の地下鉄やバスを、外国人にも分かりやすいものへと変えていく必要もあります。我が国の政治経済の中心部の真下にトンネルを持つ地下鉄は、セキュリティへの十分な配慮も不可欠です。
 九段下の壁は、九段下のバカの壁は取り払いましたが、メトロとか都営とか、これまでの縦割りのやり方は、通用しません。過去・現在・未来を正しく見つめ、東京の都市力を高める、利用者本位の新しい交通政策、総合的な政策が求められています。地下鉄の一元化も、この大きな思想の中で捉えなければならないのです。

〈誰のための地下鉄か〉
 都心部に金城湯池の独占的権益を持つ会社を、このまま完全民営化しようとする国土交通省の姿勢は理に適ったものなのでしょうか。私はそう思いません。公の出資を元手に、さらに5500億円もの補助を受けて、道路という公共の空間の下にトンネルを造り上げてきた地下鉄から生まれた利益は、東京メトロという一会社の自由な振る舞いのためではなく、利用者である都民・国民のために使われるべきなのです。
 今月末の株主総会には、安全・安心の追求と利用者視点に立ったサービスの提供を、経営理念として定款に盛り込むなど、初めての株主提案を行っています。併せて、この理念を実現するため、東京都、政府、東京メトロからなる経営改革会議の設置を要求してまいります。株主としての権利も行使し、「誰のための地下鉄なのか」「地下鉄の公共性とは何か」を、世に問いたいと思います。
 同時に、首都政府の責任として、将来を見据え、首都の総合的な交通政策と公共交通のあり方について、検討を進めてまいります。
 また、大江戸線の全38駅では、利用者の安全を守るホームドアの整備を終えました。これで、ホームドアの整備率は、メトロの44%を上回る61%になりました。外見からは分からない障害のある方が身につけることで、周囲の理解が得られやすくなる「ヘルプマーク」も、大江戸線で試行的に取り組んできましたが、来月からバスや都電も含めた全ての都営交通に拡げてまいります。

(世界中から人を呼び寄せる)

 東京を訪れる外国人の数は、2001年の年間270万人と比べて、2010年には600万人へと倍以上に増えました。しかし、その後、大震災の影響で旅行者数は落ち込みましたが、そこから急速に回復し、観光は今、成長産業として再び注目を集めております。先般、改定した観光産業振興プランでは、東京を訪れる外国人の数を、2017年には1000万人へと大幅に増やす目標を掲げました。国際会議や企業の研修旅行・展示会といった、いわゆるMICE機能を強化して、ビジネスで東京を訪れる人も増やします。臨海副都心では、昨年度から始めた東京都独自の補助制度により、コンベンションホールの新設や外国人向け観光情報の提供といった民間の取組を支援していきます。今後は、大規模なMICE施設とレストランや劇場、「大人の社交場」としてのカジノなどの観光施設を一体とした統合型リゾート施設の整備を検討してまいります。国会における一日も早い法整備を期待しております。

(環境・エネルギー戦略)

 活力ある都市を実現すると同時に、東京は世界のフロントランナーとして、エネルギーの確保と環境への配慮を両立していく必要があります。

〈新電力の育成〉
 政府は、この4月、「電力システムに関する改革方針」を閣議決定し、2015年度から順次、電力改革を実施するとしています。しかし、九つの電力会社による地域独占体制の壁は厚く、実際に競争原理が働くようにすることで初めて、中身を伴った真の改革になるのです。そのためには、競争相手となる新電力の育成が不可欠であります。
東京都は、電力の複数契約や都庁舎への地域冷暖房センターからの電力の導入など率先垂範してきましたが、さらに東京都の施設への新電力導入を拡大していきます。昼間に電力需要の山がくるオフィス型施設への導入が適していることから、こうした施設をひとまとめにして入札を実施するなど、新電力が参入しやすい環境を整えます。秋以降、順次入札を行い、30施設・4万キロワットであった新電力との契約を、350施設・10万キロワットを目標に拡大していきます。
 さらに、経済産業大臣に面会し、新電力と域外供給を合わせたシェアを30%にすることを目指して、為すべき事項を提案しました。大事なことは新電力に十分な電源を持たせることです。電力会社による卸電力取引所への電源の一層の投入に加えて、発電所の売却という手法も含め老朽化した火力発電所をリプレースし、新電力を参入させることを求めました。また、都営の水力発電について、競争入札を実施した結果、年間10億円に満たなかった電力料収入が17億円に増えただけでなく、落札した新電力は常に電気を生み出すベース電源を得ることになりました。公営の水力発電は全国で240万キロワットの発電能力を有しており、原発2基分に相当します。経済産業大臣にはこの貴重なベース電源を新電力が利用できるよう環境整備を提案し、先月の九都県市首脳会議でも東京の先進的な取組を紹介しました。今後も、東京は具体的な施策を展開する中で生み出した発想で、新電力の育成を進めてまいります。

〈東京電力改革の推進〉
 続いて、東京電力の改革について申し上げます。これまで東京電力の経営改革本部と定例会合を重ねながら、東電病院に象徴される無駄を指摘してきました。また、新電力の電力供給量が足りない時に、一定量の電力を融通する「常時バックアップ」の拡大を東京電力に強く要請し、これを実現してきました。発送電分離を先取りし、社内に競争原理を取り入れた社内カンパニー制も、この4月から動き出しています。東京電力は、徐々に変わってきていると思います。
 老朽化した火力発電所のリプレースは、東京電力にとっても、喫緊の課題であります。リプレースに関するアセスの期間を短縮するため、当時の政府にロジックを駆使して要求し、環境省が合理化してもなお2年以上かかるとしていたものを、さらに1年強にまで短縮させました。これからは、いよいよ具体的にリプレースを進めていかなければなりません。そのためにも、まずは、個別の発電所の事業収支など、経営情報の詳細な開示が必要です。情報なくして、新電力が参入していくことも、資金を呼び込むことも適いません。株主提案を通じて情報公開を推し進め、リプレースに向けた体制を構築するよう強く求めていきます。

〈スマート都市東京の実現〉
 一方で、東京都は、CO2削減のため、世界に先駆けて都市型キャップアンドトレード制度を創設し、事業者の方の意欲的な取組を引き出してまいりました。このたび、2015年度以降の5年間の削減率を新たに定めました。より大幅な削減を展開する期間として、2010年度からの5年間の削減分を含め、オフィスビルで17%、工場などでは15%の削減としています。併せて、中小企業が所有する事業所については削減義務の対象外とし、病院・福祉施設などについては削減率を軽減する特例を設けました。メリハリを付けた制度設計で、CO2削減の取組を東京にしっかりと根付かせます。東京都も業種別に研修会を開催するなどきめ細かな対応を図り、事業者の方の取組を後押しいたします。
 温暖化という地球規模の課題に対して、ニューヨークでブルームバーグ市長に、世界の大都市がCO2削減に取り組むC40のワークショップを東京で開催するという提案をしました。都市におけるCO2削減の柱である建築物の省エネ分野について、東京の先進的な取組を伝え、大都市同士の連携を深めていきたいと思っています。

(上下水道の国際展開)

 次に、上下水道の国際展開について申し上げます。
 副知事の時代、マレーシアに赴いて、東京の技術と運営ノウハウをアピールし、その後、現地の上下水道に関する改善策を盛り込んだマスタープランを提案しました。東京水道は、日本企業、現地企業とチームを組み、漏水などをなくす無収水対策のパイロット事業実施に向けて、マレーシア政府と交渉を進めております。
 東京下水道では、マスタープランを具体化し、首都クアラルンプール郊外で下水道施設の設計、建設、維持管理を一括して行うプロジェクト提案をしておりました。このたび、相手政府との交渉を最終段階へ進めるため、日本企業、現地企業、監理団体の東京都下水道サービスの3者で、合弁会社を立ち上げる運びとなりました。これが動き出せば、日本の下水道分野での官民連携による海外展開では、最大規模となります。
 引き続き、都庁が蓄積してきた高い技術力と、インフラの総合的な運営能力を最大限活用することで、世界の水環境の改善に貢献し、日本の産業力強化にも結びつけてまいります。

(少子化対策)

 次に、少子化対策について申し上げます。私は、このまま少子化が進むことに大変な危機感を持っています。人口の減少によって、経済が縮小して社会の活力が低下し、社会保障や地域での支え合いといった社会のシステムそのものが成り立たなくなるからです。
 本定例会に提案している補正予算案には、今年度創設した「東京スマート保育」について、運営費への補助を拡充し、定員を400人から600人に増やす予算を盛り込んでおります。また、保育の現場を支える方々の処遇改善も盛り込みました。認証保育所や「東京スマート保育」などで働く方の分は、東京都が独自に措置します。
 こうした子育て家庭への支援に加え、若者の雇用環境の改善など、結婚や出産をためらう若者をどう支えるのかといった課題にも本腰を入れて取り組まなければ、解決の糸口を見出すことは難しいと思います。
 まずは検討の土台を固めるため、東京の人口減少が都民生活に直接どのような影響を及ぼすのか、詳細な調査を始めました。来月には、局横断的なプロジェクトチームを立ち上げます。大都市東京の実情を十分に加味しながら、これまでの常識を一歩も二歩もはみ出た斬新な発想で、少子化打破の突破口を見つけていきたいと思います。

(TOKYO就活スタイル)

 就職支援でも、新しい政策が求められています。都内の有効求人倍率は1.2倍ですが、失業率は今も4%台を推移しております。仕事があっても職に就けないという実態があります。都内のハローワークには年間100万人の求人がありますが、実際に就職に結びつくのはわずか2割で、実に8割の求人情報は眠ったままなのです。カウンセリングやセミナー、職業訓練といった、求職者の事情に応じた支援をきめ細かく行ってこそ、具体的な就職に繋げることが可能となります。
 本来ならば、ハローワークを移管して、仕事のやり方を変えることが必要なんです。しかし、厚生労働省の抵抗で遅々として進まない中、それを悠長に待つことはできません。そこで民間とタッグを組み、「TOKYO就活スタイル」という新たな就職支援のモデルを構築することにしました。先月、民間の人材サービス業界の方々やソーシャルネットワークの専門家などからなるプロジェクトチームを立ち上げ、検討を始めました。
 スピード感を持って取り組み、新しい東京モデルとして目に見える具体的な成果を出すことで、ハローワークの移管を含め、我が国の雇用政策のあり方そのものを変えていきたいと思います。

(島しょ地域の安全を守る)

 次に、島しょ地域の津波対策について申し上げます。
 東京都は、先月、南海トラフ巨大地震の、島ごとの詳細な被害想定を発表しました。明らかになったのは、ほとんどの地域が震度5強以下であり、揺れや液状化などの被害は小さいものの、大きな津波によって人的被害が予想されるということです。深夜の地震で避難が遅れれば、最大1800人の死者・行方不明者が発生します。
 しかし、迅速に避難すれば、津波による人的被害をゼロにすることもできます。昨年、私も参加した神津島の防災訓練では、地震発生11分後に25メートルの津波が到達するとの前提で、高台に避難する訓練を行いました。村役場の人が道路の海抜25メートルのところに赤い旗を掲げ、津波の際はここまで逃げるようにと目で見て分かる工夫をするなど、村民の3人に1人が参加して、熱心に取り組んでいました。今年は、10月に新島で訓練を行います。島で大きな地震に遭ったら、急いで逃げる、ということを徹底していただきたいと思います。

3 おわりに

 秋のスポーツ祭東京2013の開会まで、あと4か月に迫りました。関係者の皆様の懸命なご努力により、準備も順調に進んでおります。秋のスポーツ祭東京の先頭を切って、9月28日に、味の素スタジアムで行われる国民体育大会の開会式では、会場を満員にして大いに盛り上げ、国体とそれに続く全国障害者スポーツ大会を成功に導きたいと思います。この大会を通じて、多摩・島しょの豊かな自然や歴史など東京の多様な魅力を発信してまいります。
 さて、本定例会は、皆様にとりまして、現任期最後の定例会であります。今、改めて、この4年間を思い起こすと、様々な出来事がありました。2年前の3月11日の東日本大震災では、東京でも350万人という大量の帰宅困難者が発生し、その後は深刻な電力不足に見舞われました。様々な都政の課題に対して、都議会での真摯な議論を通じて、帰宅困難者対策条例など先進的な施策を生み出し、あるいは現実的な解を見出しながら、都政は前に進んでまいりました。困難な時期にあって、東京の発展に力を尽くされたことに心より感謝申し上げます。
 現任期を最後にご勇退される方々には、これまでのご労苦に対し、都民を代表して深く敬意と感謝の意を表します。また、改選を迎えられる皆様には、心よりご健闘をお祈り申し上げます。

 なお、本定例会には、これまで申し上げたものを含め、予算案1件、条例案10件など、合わせて19件の議案を提案しております。よろしくご審議をお願いいたします。

 以上をもちまして、所信表明を終わります。