〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会

平成20年10月10日更新

「先端技術と低炭素型都市づくり」
平成20年度第1回「〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会」


議事概要

テーマ

「先端技術と低炭素型都市づくり」

日時

平成20年9月17日(水) 15時から16時30分まで

場所

パークタワーホール(東京都新宿区西新宿3−7−1)

出席者(敬称略)

写真:石原知事と議論する会の様子石原慎太郎 東京都知事

◆コメンテーター
 山本良一(東京大学生産技術研究所教授)
 井上裕之(愛知産業(株)代表取締役社長・東京商工会議所副会頭)
 見城美枝子(青森大学教授)
 杉本完蔵(太陽光発電協会 幹事)

◆コーディネーター
 生島ヒロシ(キャスター)

 公募都民等 320人

発言要旨

 以下は、出席者の発言内容を生活文化スポーツ局広報広聴部で要約し、取りまとめたものです。
 ※文中、敬称略

○生島(コーディネーター)
 今回のテーマは「先端技術と低炭素型都市づくり」です。
 東京都は、低炭素型社会への転換を図るということで、日本では初めて大規模事業者に対するCO2削減の義務化と排出量取引制度を導入することにしました。これは大変重要なことです。環境問題は、自分だけがやってもという意識を持っている人が一人ひとり、そして、一つの企業、都市、国が取り組まなければなりません。そんな中、再生可能エネルギー拡大のために、来年度からですが、2年間で4万世帯への太陽エネルギー利用機器の設置を目指し、太陽エネルギー利用拡大連携プロジェクトを開始しております。来月には、「C40気候変動東京会議」を開催し、東京が持つ高度な先進技術を世界の大都市と共有し、環境先進都市としてリーダーシップを発揮していくことになっております。
 まず、都知事から、世界をリードする環境都市の実現にかける意気込みからお聞かせいただきたいと思います。

○石原知事
 皆さん、この問題について基本的な心構えを持たないと、具体的に有効な解決方法につながっていかないと思います。これは哲学の問題です。
 文明が進みすぎて、営利、経済的な利益、そうしたものを優先するととんでもないことになる、そのツケが今回ってきていると思います。
 あと5年でチッピングポイントを越えてしまうという現実が迫っています。東京は東京なりに、ちりも積もれば山となると思ってささやかな努力をしていますが、本当は、日本全体がすればもう少し大きな抵抗になると思いますが、全くしません。
 さらに、厄介な問題として、必ず、H5N1新型インフルエンザが流行します。これに対する予備を日本はほとんどしていない。商工会議所はこの問題に対して強い意識を持っておられるけど、経団連は、この問題について消極的です。企業のリーダーたちが、企業活動を通じての社会に対する責任の履行するということですが、だったら、5年先に壊滅的な状況が到来してしまうかもしれない温暖化の問題について、なぜ経済界が乗り出そうとしないのか。これは文明史観にのっとった責任と欲望でしょうか、利益は欲望の対象だけど、利益と、それと相反するかもしれないけれども、リーダーとしての責任をどう取っていくかということの問題になると思います。
 私は都庁で話をするときにいつも言うのですが、「たとえ明日地球が滅びるとも、君は今日リンゴの木を植える」という言葉です。東京はそのつもりでやっているわけで、東京がどういう形で変貌していくか、いかないか、これは本当に私たちの努力次第だけど、たとえ東京が一人試みに成功しても国が動かなければしようがないし、世界が動かなければしようがない。

○生島(コーディネーター)
 ありがとうございました。知事も地球温暖化にはかなり危機感を抱いていますが、2100年までに、平均海水面が88センチ高くなる、2100年までに気温が5.8度高くなるという話もあります。温暖化の一つとして感染症の話も出ましたが、これも恐ろしい問題です。そんな中で、環境技術を導入することが、日本は環境先進国ですから、このあたりは本格的に取り組んで、エコノミーとエコロジーを両立させることが重要だと思います。
 山本先生は、東京大学生産技術研究所でご研究をされ、各種メディアで温暖化対策の緊急性と持続可能な地球への取組みの重要性を訴えられていらっしゃいます。現在の地球の状態はどうなっているのか、我々は今後どうしなければいけないのかメッセージをお願いしたいと思います。

○山本(コメンテーター)
 本日のテーマの一つは「都市問題」ですが、東京のような大都市は環境エネルギー資源の観点から言えば、集中治療室にいる患者と考えると的を射ていると思います。
 年間265億トンのCO2を出して、その約60%が空気中にたまっていっている。年間152億トンのCO2が空気中にたまるわけです。ところが、京都議定書で我々が削減しようというのは、年間10億トン、排出量を削減するという話ですから、これは焼け石に水どころの騒ぎではありません。
 それで今何が起きているか。まさに環境バブルの崩壊が起きている。1年前に、北極海に浮かんでいる氷の面積が、30年前の9月の北極海氷の面積は750万平方キロでした。昨年は413万平方キロまで減ってしまいました。5年以内に消滅することが極めて真実性が高まってきています。
 北極海氷が消滅すると、アメリカの西部が大干ばつになる。地中海沿岸も大干ばつになる。オーストラリアの中部は砂漠が拡大する。それから、北極海に面するシベリア沿岸から1,500キロの内陸部のツンドラが溶け、温暖化が加速されてしまう。ジェット気流の位置が変わる、さらには、アジアのモンスーンが影響を受けるということで、どういう影響が出てくるかは予断を許さない状況です。
 炭酸ガスというのは一度放出すると、その5分の1は1,000年以上空気中を漂うことがわかってきました。ということは、我々は1,000年のモラルを持たなければいけない。つまり、倫理的責任は1,000年間。政治家は100年のタイムスパンで責任を取ってくれと、今、科学者が言っています。
 石原知事の一番称賛に値するところは、行政が何もしないと国民が塗炭の苦しみを味わうことになりかねないことをよく認識しておられる。これが大変すばらしい点だと思います。やはり東京が先手をとって国を引っ張っていく。
 私は、今こそ立ち上がらなければいけないと思います。もう時間がありません。洞爺湖サミットで合意されたように、2050年までに半分削減する。その2050年温室効果ガス半減には4,800兆円かかります。ところが、それは一方で莫大な環境マーケットが出現することを意味するわけですから、日本はその先手をとって環境産業革命を行って、環境立国で伸びていくようにしなければいけない。その先頭に立つべきは、当然、行政であり、政治家です。ですから、我々は政治家を適切に選びことが一番の解決策だと思います。

○生島(コーディネーター)
 今の先生のお話の中で、技術の問題もありましたが、21世紀型技術として、慶應大学の清水浩先生が、太陽電池、リチウムイオン電池、鉄も水素製鉄、電気自動車、この4つを導入することによってCO2がかなり削減できるとアピールしていらっしゃいましたが、コスト面も考えるなかなか難しいところがありますが、山本先生はどうお考えですか。

○山本(コメンテーター)
 清水先生の本は、私も読みました。基本的には、先ほどの私の話につけ加えて、2050年、日本は6割、8割削減ということで、今、日本の全政党がそう言っているわけですから、できるか、できないかということが問題です。答えは、できる。既にある技術で5割は削減できるという多くの研究があります。ですから、私は基本的に可能だと思います。問題は、そういう社会変革をどう起こすかです。

○生島(コーディネーター)
 今度は企業の立場からお話をお伺いしたいと思います。21世紀も企業が存続していくためには、最終的な決算については、財政面、社会的な影響、環境面の3つを考えてトリプルボトムラインをクリアしないと生き残れないのではないかと思います。ただ、今は、世界のマーケットにおいて恐慌が起きるのではないかという不安もあります。そんな中で、企業が今後、環境立国として果たす役割は大きいと思います。
 そこで、愛知産業社長の井上さんにご登場いただきまして、新しい技術を開発されている企業の立場から、また、東京商工会議所副会頭としての視点で、環境問題に対する中小企業の取組みをお話しいただきたいと思います。

○井上(コメンテーター)
 私ども愛知産業は、もともと省エネルギー、省資源、省力化を基本理念とし、省エネという分野においては50年以上前から取り組んできております。
 その一つには、従来は重油だけでやっていた鍛造業界の仕事を、中周波の誘導過熱に電気的に切り換える装置を導入しました。ただ、そのときに一番問題になったことは、イニシャルコストが非常に高いということでした。技術的見地から言うと、省エネに関することは一つの大きなビジネスチャンスであります。
 近年、50%省エネ可能なビル空調を開発しましが、さっぱり売れていません。ランニングコストは安くなり、5年ぐらいで償却できるわけですが、イニシャルコストが高くなかなか採用されません。
 一つ提言があります。ごみの焼却発電です。ごみ焼却発電の高能率化については、まだまだ取組みが足りていません。アメリカでは、ごみ焼却発電はもう30年も前からスタートしていて、非常に効率的に発電しています。日本のごみ焼却発電が、もし、そのような高能率の発電をするならば、たぶん、日本全国で千何百カ所あるわけですが、原子力発電所を5つか6つをつくったものと同じ効果が得られるのではないかと思います。
 また、外環道の問題も大事だと思います。早く着工すれば、二、三百の明治神宮にある緑を増やしたことと同じような効果が期待できます。CO2が20〜30万トン削減できます。交通信号もできるだけ早くLEDの信号に取り替えるすべきだと思います。
 東京商工会議所は、東京都の環境保護条例の改正に則り、会員企業の地球温暖化対策の行動指針を出し、会員企業の温暖化対策に対する支援をスタートしております。
 ただ、中小企業は、省エネルギーの設備のための資金的余裕がないことが大きな問題です。東京都からの助成や、借入に対する保証、金利負担等の施策により、省エネ設備が一日も早く普及させる仕組みが大事だと思っております。
 ともかく、先ほど知事がおっしゃった、大企業、経団連はどうも反対だけど、日本を支えているのは中小企業で、東京では8割が中小企業ですから、その中小企業が一緒になって温暖化防止のために活躍することが非常に大事だと思います。低炭素都市に向けた取組みは、ともかく待ったなしで行われなければならない。そのための行動は、ボトムアップ、トップダウン、両面でつくり上げていく必要があろうかと思います。一日も早い実現をぜひともお願いしたいと思います。

○生島(コーディネーター)
 井上さん、ありがとうございました。
 確かに、例えば僕なども、やはり口先だけではだめだということで生ごみ処理器を導入したり、家の中にエコ給湯なども入れていますが、企業も、例えばホテルニューオータニを取材したのですが、CO2排出量28%削減へということで、窓もフルハイトウィンドウという紫外線をカットするものを使ったり、あと、ニューオータニだけで生ごみが1日に5トン出るのですが、それを特別の生ごみ処理器を導入して、年間で3,000万円の削減ができたそうです。こういう例などをもっと紹介して、具体的な例を示すことによって皆さんも参考にできるのではないかと思います。
 続きましては見城さんにご登場いただきたいと思います。TBS時代の私の大先輩でいらっしゃいますが、今は青森大学で環境学を講義されているとともに、ジャーナリストとしても幅広い分野で活躍していらっしゃいます。そんな中、我々の生活の中での省エネ技術についてどのようにお考えなのか、見城さんにお伺いいたします。

○見城(コメンテーター)
 環境問題というのは、私たちの日々の生活、今後の方向を示す行政、そして、技術の3つが協力して取組んでいかないと結果は出てこないだろうと考えています。
 まず、個人の取組みということでは、ごみを分別することですが、リサイクルされると考えていくら分別して出しても、全てのリサイクルは難しい。できるだけペットボトル社会から脱皮していくことが重要ではないかと思います。水事情の良くない国ではどこでも水をペットボトル化し、使用後は山のように捨てられています。リサイクル、リユース、リデュースと、経済的に発展した国が一生懸命努力しても、地球全体で見たときにどうなのかという、少し力が抜けるような現状をあちこちで見ます。しかし、私は、経済的にもこれだけ発展した東京ですので、東京モデルというものをどんどん打ち出していけたらと思います。その一つに水があり、水道水が一つのポイントになるのではないかと思っております。
 そして、100年生きた木を長年使用してCO2を固定化させ、自然と共存していく日本の家づくりの考え方を新しい建築に取り入れるべきだと思います。また、大都市のモデルとして、食料も地産地消を基本とすることで物流の効率化を図り、CO2排出を抑えていくことが必要だと思います。日本は海に囲まれており、豊富な近海漁でなるべく自給していくべきだとも思っています。

○生島(コーディネーター)
 「地産地消」という言葉が出ましたけれども、「消」よりは「地産地活」はどうかなと思います。「活かす」という意味で、そのほうがいいのではないかと私はずっと思っています。
 あと、東京ミッドタウンは和風の要素も取り入れて、そういう意味では、まちづくりとしては環境を考慮したつくりになっていますよね。

○見城(コメンテーター)
 そうですね。今度、東京駅の駅舎が高層化されず、辰野金吾のすばらしい作品である建物が残り、皇居の緑からの風の道ができたということでは非常にうれしいです。皇居近隣と一番町あたりは、本当に、昆虫、鳥が大変多いそうで、ああいう緑がある東京を大事にしていけらと思います。

○生島(コーディネーター)
 さて、最後に、今後、持続可能な社会を維持していくためには3つの重要なことがあると思います。1つ目は法規制。2つ目は、環境教育を意識した皆さん一人ひとりの意識改革。3つ目が新技術ということになります。その技術面で大変注目されるのが太陽光発電ですが、ここで杉本さんにご登場いただきます。太陽光発電協会の幹事として太陽光発電の普及に取り組まれていらっしゃいますが、自然エネルギーの活用は今後ますます必要になりますが、その普及させるポイントはどういうことなのか、杉本さんにお伺いいたします。

○杉本(コメンテーター)
 ご紹介ありがとうございます。太陽光発電協会の杉本です。
 当協会は、太陽光発電の普及を目指すための団体で、太陽光発電メーカーや電力会社をはじめ74社の団体で構成されています。
 気候変動による様々な社会変化や異常現象が起きる状況を見ると、今までの省エネでは限界があり、省エネとともに新しい再生可能エネルギーをいかにうまく使っていくか。これがまさにこれからの私たちのライフスタイル、ワークスタイル、企業スタイルを変えていくのではないかと思います。
 再生可能エネルギーの中でも太陽エネルギーの活用は直接我々都民が、家庭みずからが設置することで直接参加することができます。
 自分の家で起きた電気が、みずからの生活の中でどう使っていくかという楽しみが生まれ、自然を強く意識するという点が重要なポイントです。また、家族がみんなで節電運動をしたりして、家庭全体が省エネに対して意識を持つことができます。
 やはり電気代をうまく節約することによって、例えばタイマーを使ったり、いろいろなライフスタイルの中でうまく電気を使うと、余剰電力ということで余った電力を東京電力に売ったものと自分が使う電力が、ちょうどプラスマイナスゼロになることも可能です。
 ソーラーを設置することによって、これは光もありますし、熱もあります。いろいろな形で家族全体が太陽光をうまくエンジョイして、さらに毎日の生活をうまく自然と一緒に共生していこうということで、環境教育の面でも非常に役に立ちます。
 東京都では、来年から2カ年にわたって、毎年2万件の太陽エネルギー利用に対する助成を行うため、90億円で2カ年の補正予算を組まれました。これは非常に新しい試みだと思います。この中で大切なことは、設備を設置した方の太陽光の自家消費の部分をグリーン証書化し、それをカーボンオフセットできることです。こういう仕組みは今まで日本にありませんでした。これをまさに東京都が始めることによって、日本全国の自治体に広がると思います。これこそまさに東京モデルだと思います。いろいろな形で、キャップ・アンド・トレードとか言われていますが、まさに消費者の方がうまくつくった自然エネルギーを、こういう形でうまく企業も取り入れて、全体のCO2を減らしていく新しいモデルではないかと思います。
 特に重要なことは、10年間の環境価値を買い取るという明確な目標を都として出したことです。導入される方は、新しい未来をきちんと提示して、その中でこういうことができることが明確にわかれば、どんどん導入していくだろうと思います。今、太陽光発電装置は高いと言われていますが、技術の進展とともに市場があることによって競争が働きます。それによってコストはうんと下がると思います。東京都が進める、これからの2年間の新しい施策は日本をリードする、世界をリードする新しいモデルではないかと思います。

○生島(コーディネーター)
 個人でも意識の高い方はマイエコというものを実践していらっしゃいまして、僕も、王監督のお嬢さんの理恵さんと一緒に食事をしたときに、あの人はマイ箸を持ってくるのですが、相手の分も持ってきます。ご自分の箸を持っていらっしゃる方はいますが、一緒に食べる方の箸まで持ってきたので驚きました。個人個人のそういう努力、意識改革が重要だと思います。
 同時に、エコに関して言うと、やはり技術を上手に導入する。僕がエコキュートを導入したのは、個人だとイニシャルコストがかかるので、このあたりももう少しいろいろな補助や援助があるともっと普及するのではないかと思います。
 さて、本日は、この会にぜひとも参加したいということで応募してくださり、会場においでになっている都民の3名の方にこれからご発言していただきたいと思います。三河さん、秋山さん、横地さんのお三方に、発言、ご質問があればしていただきたいと思います。
 まずは三河さんですが、企業の環境活動と自治体との連携・交換が必要であると。取り組む企業に対する優遇策や成功事例の企業間共有などもしてほしいということがポイントになると思いますが、三河さん、よろしくお願いいたします。

○三河(都民)
 勤務地が港区の汐留にあるビルで、そのビルには2,300人が勤めております。経済環境が厳しい中で、企業としては体質改善、特に費用削減は当然のことですが、実は面白い事例があります。今年の5月から8月までの3カ月、24階建ての1フロアに女性用トイレが4つあります。トイレで水を1回流すと8〜9リットルぐらい流れます。そのトイレで、擬音の装置を設置しましたら、3カ月で20トンの水が削減でき非常に効果がありました。
 当然、私どもの企業では、省エネの機運をつくっていますが、先ほどの太陽光発電もそうですが、努力した結果に対して、その費用を援助するということが成功につながるのではないかと思います。助成制度がうまく機能することで、企業が環境問題に対して貢献できると思います。ひいては、それが企業ではなく家に帰ったときでも、何かそういう環境に貢献したら、それが家庭の負担の何かの援助になるような形のものをぜひつくっていただければ、それも成功事例の水平展開になるのではないかと思います。

○生島(コーディネーター)
 最近、トイレなども節水型、省エネ型のものが多いですし、TOTOなどは、これは一橋大学の米倉誠一郎先生から聞いたのですが、水を流すと、それで電気をためられる技術も進んできているそうです。
 知事、いかがですか、今、わかりやすい事例でしたが。

○石原知事
 全くそのとおりだと思います。ちりも積もれば山となるで、小さなものを積み上げない限り大きな山はできませんからね。私たちは、さっき3つの要因があるとおっしゃったけど、まず個々人が、強い使命感までは持たなくても、自分のミニマムな責任を果たしていく意識を、事例をたくさん並べて、これならできる、これならたくさんしてもらえるという形で羅列することです。間に合うかどうかわからないけど、皆さんにリンゴの木を植えてもらいたいと思います。

○生島(コーディネーター)
 ありがとうございました。
 三河さん、どうもありがとうございました。
 続きまして、北区にお住まいでフリーアナウンサーでいらっしゃいます秋山さんにもお越しいただきました。秋山さん、どうぞよろしくお願いいたします。

○秋山(都民)
 私は北区に住んでいまして、小さいころからずっと住んでいるので、少し気がついた変化があります。昔は飛鳥山公園や一里塚に木が繁っていたのですが、道路整備できれいな公園にはなりましたが、土や木が少し減ってしまったことが残念だと思っています。
 建築技術が進むことによって、そうした手つかずの、もともとあった北区の自然が、だんだんマンションなどに生まれ変わってきています。人が住むために必要なことではあるのですが、何かもっとほかの方法があるのかなと思いました。
 先ほど見城さんがおっしゃったように、やはり生活の中で緑はとても大切なものだと思いますし、生きていく中で、そういう生き物がいることが子どもたちにとってもとてもいい勉強になると思います。北区では環境大学というものをつくって、もともと江戸時代にあったホタルを北区に取り戻そうという運動もしています。それは、施設などをつくらずに、子どもたちにホタルの幼虫を渡して育成してもらうものですが、その中で、生きたままでかわいそうなのですが、タニシを割ってエサにしてあげたりしています。大人は、かわいそう、気持ち悪いと言いますが、子どもたちは意外とそれをすんなり受けとめたりしています。
 そうしたことを東京都ももっと応援していただけたらという思いがあります。今ある木々を残しつつ、新しい木々も育てていくような方向でぜひ考えていただけたらと思いました。

○生島(コーディネーター)
 秋山さん、ありがとうございました。知事、一言どうですか。

○石原知事
 お聞き及びかどうか知りませんが、東京都は2年前に、10年というとらえ方でこのまちをかなり変えようという計画を具体的に立て、10年間で緑地を1,000ヘクタール増やすとか、街路樹を現在の47万本から100万本に増やそうとか、努力しています。
 それも、ある意味では財政的なバックアップが必要ですから、自分の名前を残すような形で、街路樹の苗木を買っていただいて、それにプレートをつけて、その木が育つことを楽しみにしてもらいたい。そういう試みを実施していまして、随分いろいろな形で、いろいろな方から予想以上の協力をいただいております。
 それから、企業の協力を得て、緑地を増やす一つのすべとして、例えば東急などはすぐに実行してくれたのですが、都内を走っている東急の電車の沿線の斜面は、雑草でもいいのですが、とにかく緑を増やそうということで、一種の緑化をしてもらいました。そういう形で積み重ねということを具体的に地域ごとに、さっきおっしゃったホタル云々のことも、地域によって状況が違いますからね。これはやはり東京全体ではなく、地域ごとに考えて、自分のまちだから皆さんで進めてください。

○秋山(都民)
 緑化ということと、本当の自然を残すことは、実は違うのだとおっしゃっている方がいて、それについて石原さんはどうお考えでしょうか。

○石原知事
 それはやはりこれだけ様々な機能と人口が集積したまちで、いわゆる緑ではなくて本当の自然を残すことは難しいです。緑がなくなること、木がなくなることをよしとはしませんが、ミニマムのトレードオフの問題だと思います。だれでも庭付きの平屋の家に住みたいけど、地価の問題からしてもそうはいかないわけです。どうしても都市の多くの部分が高層化されていくのは仕方がないことでもあります。ただ、集中・集積がこれ以上進むことが好ましいこととは思いません。しかし、文明工学的に、世界中どこの国でも、先進国、発展途上国、都市というものは集中・集積して、同時にそれによってエネルギーを蓄積していますから、文明工学の中でどういうバランスをとるか非常に難しい問題です。それはだれでも自然を残したい、緑ではなくて本当の自然を残したいと思うけど、これは難しいでしょうね。

○生島(コーディネーター)
 見城さん、いかがですか。

○見城(コメンテーター)
 暖かくなって、これはいいことか、悪いことかわからないのですが、沖縄のゴーヤが群馬県でも生産できるようになりました。最近、東京で、昔はヘチマだったけど、今はゴーヤを窓辺に植えて小陰をつくるとか、それぞれの個々の生活の中で、例えば緑を増やしていくとか、それから、大きな建物をつくるときは必ず、かつてはミニサンクチュアリとは言いましたが、ミニどころか、今はかなり空間をつくって、そこに木を植樹していくなどしています。文部科学省のところも、土手のようになっているところを緑の小高い丘にするとか、デザインからもそういうものを取り入れているところがあります。それは、先ほど申し上げたように、私たちが、こういう方向がいいと思うということを常に言っていくことが大事ではないかと思います。

○石原知事
 それはだれでも豊穣な自然を望みますよ。ただ、私、この連休、友達と伊豆七島へ行って潜ってきたのですが、驚いたのは、黒潮に乗ってやってきて冬は必ず死んでしまうネオンテトラなどの熱帯魚が、大島あたりでも年を越して生き残っていました。とても大きなネオンテトラが群れをなしている。これは、ある意味では、海が好きな人は、熱帯魚が大島で見られて豊穣な自然になるかもしれないけど、何か大きなものが狂ってきているという感じがしましたね。

○見城(コメンテーター)
 本当に暑くなってきているのがわかりますね。

○秋山(都民)
 個人的に増やしていくというか、広い家に住みたいのと同じように緑を残すことは難しいかなと思うのですが、まちづくりからすると、木々が人々を守っているところもあると聞いています。例えば、何か災害があって倒壊したり、火災が起きて延焼が広がったときに、昔ながらの立派な木は延焼を止めたり、木々の倒壊を助けたりするとも聞いています。あと、石原都知事のように、たぶんやんちゃにお育ちなっているからこそいろいろなイマジネーションが湧いて行動力の源になっているのではないかと思うのですが、今はそういうふうにやんちゃに育つことが、やはり自然がないことで難しくなっているのかなと思います。親や大人が用意した虫や生き物をさわるだけではなくて、こっそり何かいたずらして、森の中というか、木々の中で、地元の地域の中で育っていく、生態系の中の一つとして人間が育っていくようなことがとても大切なのかなと思うのですが、その点について、緑化や温暖化だけではなくて、まちづくりという点ではどうお考えでしょうか。

○石原知事
 それは、もう片方で文明的なマイナス要因があると思いますよ。つまり、情報につながるかもしれないけど、いろいろな遊びが増えてきて、道路がアスファルト化したことも一つの引き金かもしれないけど、子どもそのものが外であまり遊ばなくなりましたね。家の中でいろいろなことができるから。これはやはり、非社会的、反社会的な行動を起こす若者たちを造成しているという感じがしますね。

○生島(コーディネーター)
 やんちゃ度合いから言ったら、弟の裕次郎さんのほうがやんちゃだったんですよね。(笑)

○石原知事
 どうなのかわかりませんね、それは。(笑)

○見城(コメンテーター)
 榎町公園とかミッドタウンなども、私もTBSなのであの辺の昔を少し知っているのですが、少しさびれたところでした。古いからそのままいいというのではなくて、木も朽ちるかと。ところが、ああいうふうにミッドタウンになったときに都市計画としてよかったことは、全部をビルにしないで、ビルを建てるにあたって土地を提供しなければいけない空間と一つにして、あそこに緑の空間ができました。だから、やはり開発していくときに、必ずそれに見合った空間と緑をつけることが今進んでいるので、そこは私たちが見逃さない、それを評価することも重要かと思います。

○生島(コーディネーター)
 環境のキャスビー(CASBEE:建築物総合環境性能評価システム)がありますよね。

○見城(コメンテーター)
 そうそう。
 あと、例えば技術の開発では、日が当たらなくてだめだと言う人がいますが、鏡のようなものがあって、そういうものを壁面に取りつけることで反射させて、日が当たらない場所の木も育てることができます。21世紀型の緑を育てていくという感覚でやってみていただくといいかなという気がします。

○生島(コーディネーター)
 もうおひと方。世田谷にお住まいの横地さんにもお越しいただきました。

○横地(都民)
 身近な、先端的ではない、2つの省エネ方法と、プラス2つの提案をさせていただきたいと思います。
 一つはエアコンの省エネです。冷暖房の原理は、基本的に冷凍サイクルで話されます。冷凍サイクルは、圧縮、凝縮、膨張、蒸発、また圧縮、凝縮、こういうサイクルで成り立っています。コンプレッサーで圧縮された高温高圧の冷媒ガスを冷やして液化する部分を凝縮と言いまして、そこの部分を少し効率よくしようというものです。いかにその部分を冷やすかということで、室外機に直射日光が当たらないようにする、風通しをよくする、周囲を冷やすようなことをしてはどうか。具体的には、大きな屋根をつけたり、回りを柵で囲ったり、周囲を木などで囲って直射日光が当たらないようにする等いろいろあると思います。
 また、冷房時に出るドレーン水を捨てないで、周囲や本体に散布して、空気の通り道から冷やすようなことを考えてみました。特にドレーン水は冷房運転していないと出ませんが、水道水とは違い塩素が入っていなくて、また、水温も低いためアルミ素材に対しても影響が少なく、この水をただ捨てるのはもったいないので、これを有効利用してはどうかということです。
 2番目として、既にヒートアイランド化している都心部に関しての省エネです。都心部のほぼ全域を覆っている舗装され尽くされている道路、また、学校の校庭、河川や海岸の護岸がコンクリートでできていて、これらは良質の熱蓄熱体ですので、そのほとんど日中に力いっぱい日をあびて蓄熱してしまいます。これが夜になって放熱するため都心の気温を下げないので、ここの部分を断熱性がある塗料で覆ってはどうかということです。
 あと2つ。街頭で無料配布されているポケットティッシュがありますが、それが大量に出回っており、これが世界の森の木々を伐採して森林を減らし、温暖化に逆行しているということで、これは規制してもらうべきではないかということを提案させてもらいます。
 少し環境とは違いますが、知事に一つお願いがあります。写メール110番、写メール119番の新設を検討いただきたいということです。携帯電話も増えてきましたし、この前、水没した車の事故なども、そういうものがあれば比較検討になったり、口では説明できないものが写メールを使うことによって効率よく、間違いも少ないものが送れるかと思いまして、最後の提案とさせていただきます。

○生島(コーディネーター)
 山本先生、最後に、今や躊躇している場合ではないと。5年というタイムリミットをおっしゃいました。最後に一言、先生からも、こうしなければいけないというアピールをお願いします。

○山本
 行動の時です。全力を挙げて、低炭素社会に向けて動かなければいけない。全力疾走がもう始まっているので、私は心強いと思っているのですが、基本的には技術もあるんですよ。ですから、いかに社会の構成員が全力を挙げて走り出すかです。特に政治家のリーダーシップが決定的に重要だと思います。

○生島
 都知事、最後に、感想を含めてまとめをお願いします。

○石原知事
 それぞれの人間が自分の人生を持っているから、人生について考え、感じているわけです。ただ、冒頭に申し上げたように、私は、本気でそれぞれがそれなりの哲学をしなければいけない時期に来たと思う。それは決して大げさなことではなく、今、どなたかがおっしゃったように、私も地球はもたないと思います。東京を預かっている人間だから、それは軽々に言いたくないけど、このままではとてももたないと思います。
 一番嫌な感じがしたのは、去年、バリ島で会議があって、成果がほとんど何もなかった。今年、洞爺湖サミットがあったときに、僕は、オリンピックのことで福田君と森喜朗と3人で会ったときに、昔の仲間だからいろいろな注文を出したけど、やりますとは何も言わなかった。この間の洞爺湖サミットというのは、何ですか。半歩前進。去年から今年にかけて半歩しか進まなかったら、これはとても間に合いません。
 やはり人間の欲望というのは、現世の利益ばかりを考えて自分の子孫のことを考えないのだなという感じがしました。それでもなお、私は在任中、できるだけのことはしますけど、それは決して、責任を子孫に対して果たしきれることにはならないと思う。しかし、やらざるを得ない、やるべきだと思う。これは、山本先生も同じ強い危機感を持っていらっしゃると思うし、専門家になれば専門家になるほど、自分の人生を踏まえて人間の将来を考えざるを得ない。そのときに、そう楽観できる時代ではないという感じがします。そういう意味で、私は物書きでもありますから、いい時代に生きて、いい時代に死ぬんだなという感じがするけど、子孫たちへの責任はそれでは済まない。やはり考えなければいけないと思います。

○生島(コーディネーター)
 ありがとうございました。
 本日のお話の中で、温暖化対策は躊躇している時間はないと思いますし、知事もおっしゃっていますが、環境対策で国としての品格を示すということもとても重要なことだと思います。それから、世界の大きな都市と連携して、気候変動対策に本格的に取り組むことが大変重要だと思います。そのためにも、新しい技術の導入は環境問題においては避けて通れないものですから、このあたりも積極的に取り入れることによって、エコノミーとエコロジーの両立を図っていきたいと思います。
 本日は、皆さん、お忙しいところをお集まりいただきましてどうもありがとうございました。改めて、山本先生、井上先生、見城先生、杉本先生に大きな拍手を、そして、都知事、どうもありがとうございました。