〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会

平成16年7月29日更新

「健康と食生活〜おいしく食べて元気になろう〜」
平成16年度第1回「〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会」議事概要


テーマ  「健康と食生活〜おいしく食べて元気になろう〜」

日時  平成16年6月10日(木)15時から16時30分まで

場所  東京都庁大会議場(都庁第一本庁舎5階)

参加者

写真:石原知事と議論する会の様子(出席者)
石原 慎太郎 都知事

コメンテーター
 香川 芳子 さん(女子栄養大学学長/医学博士)
 唐澤 人 さん(東京都医師会会長/医学博士)
 服部 幸應 さん((学)服部学園 服部栄養専門学校 理事長・校長/医学博士)

コーディネーター
 白石 真澄 さん(東洋大学助教授)

公募都民 505人(うち発言者5人)

発言要旨

 以下は、出席者の発言内容を生活文化局広報広聴部で要約し、取りまとめたものです。

○白石さん(コーディネーター)
 本日のテーマは、「健康と食生活〜おいしく食べて元気になろう〜」です。
 まず香川さん、医学の中でも予防医学が大事だと言われ、食は予防医学の中でも一つの重要な要素になると思いますが、今の健康づくり、食生活についてどのような認識をお持ちでしょうか。

○香川さん(コメンテーター)
 最近は、特に食べ物が昔と変わりました。昔は周囲の動植物が食べ物でした。例えば甘い物を自然の中でとるなら果物で、エネルギーのある糖分だけではなくてビタミンとか、繊維とか、カリウムもとれたんですが、今は砂糖を水に溶かして色や香りをつけてソフトドリンクにして、それで済ませてしまう。あるいは、昔なら脂の多い肉を食べれば一緒にタンパク質やビタミンもとれたんですが、今では油ででんぷんのこねたものを揚げてスナックにしてしまいますので、これもエネルギーはありますが、他の成分は何もない。私どもにとってエネルギーは非常に大事なもので、大切に脂にしてとっておきますから、どんどん太ってしまいます。昔のように食べられないときには翌日それで生き延びたんですが、今は毎日食べるものがあるわけです。それを繰り返すと、肥満になる。
 日本人は肥満には弱い国民で、糖尿病などは私が勉強していたころに比べると100倍ぐらい多くなってしまいました。食生活など環境が主な原因です。確かに、食べ物が豊かになって、平均寿命が延びましたが、とても生活習慣病が増えて、そのために日本では高齢者のうち、起きられないとか痴呆などの病気になってしまう方の率が、よその国よりも高いという状態になりました。
 しかし、きちんと食べると、初めから生活習慣病にはならないというのが、大部分です。すべての日本人がちゃんとした食べ方を知っていなければいけない。人間は、まず動物として自分の体を管理できるようにするということが教育の第一歩。義務教育で教えるよりほかない。幸い学校給食があります。そういうもので教えていくなどしないと、平成25年には日本の医療費は100兆円を超えて、国家予算をはるかに超えてしまう。みんなでちゃんとした食べ方を覚えたい。そして健康でいたいというのが、私の願いです。

○白石さん(コーディネーター)
 服部さん、今の食生活、家庭の食についてどのような認識をお持ちでしょうか。

○服部さん(コメンテーター)
 私は、「食育」というのを十二、三年前から言い出しました。今の日本の教育というのは、「知育・徳育・体育」という3本の柱でできていますが、どうもこれが全部機能しなくなったんだろうなと。戦後、この3本の柱をずっと文部省が行ってきました。しかし、本来であればしつけ教育をしてくれるはずの家庭がどうもしてくれていない。これは核家族化が進んだせいですね。「衣・食・住」の伝承ができていない。それなら、食を通じた人間教育をやるべきではないかと。
 日本の教育の「知育」というのは、記憶力さえよければ上の学校に上がれるように仕組まれてきたのではないか。「徳育」というのは、今は家庭科の授業の中に若干残るだけでほとんどないと聞いています。そして、「体育」ですが、食べ方がうまく機能していなくてどうもガッツが出ない。食べ方も非常に重要だと思います。
 平均寿命は今世界一です。健康を害するところまでを健康寿命といいます。害してから亡くなるまでの寝ている間を指標とすると、各国みな違います。日本では、女性が9.13年寝込んでいます。介護するだけでも相当なお金がかかるわけです。男性の場合は6.77年です。
 また、今、世界で一番料理のできない子どもを育てた国が日本です。義務教育の中で、少なくとも卒業するまでに20品目ぐらいの焼く、蒸す、揚げる、煮るの基本ぐらいはきちっとやってもらいたいと思います。今、小学校の5年生になって初めて料理の勉強が入るんですが、僕は遅いと思います。
 日本は、無関心層と無責任層と無気力層がこんなに増えてしまった。私は、食を通じた人間教育をぜひこれからやっていかないといけないと思っています。

○白石さん(コーディネーター)
 唐澤さんは内科医として診療を続けていらっしゃって、この10年、20年で健康相談の内容も少しずつ変わってきたのではないでしょうか。

○唐澤さん(コメンテーター)
 私は下町で40年ぐらい医者をやっております。親の代からですので、100年近くになります。
 地域で高齢者が増えてきていますので、寝たきりとか、動けないと言えば往診する。それから、近くには保育園もあります。具合が悪くなればご両親がすぐ帰ってくるわけですが、ほどほどのものですと、夕方ぐらいまで待っていて、会社から帰ってお母さんかお父さんが連れていらっしゃるということで、夜間診療が非常に繁盛しております。
 昔と少し違うのは、よく拝見しても、あまり子どもさんは具合が悪くなくてにこにこしていて、お母さんも子育てに疑問を持っておられるんです。自信がないものですから、ちょっとしたことを聞きにいらっしゃいます。子育てにおけるいろいろな情報が非常に減ってきていると思います。
 それから、地域に町工場もあって、いろいろな事業所があります。そういうところにお勤めの方で突然糖尿病を発症したとか、あるいは健診で高血圧が見つかったとか、ある年代になったら急にコレステロールが増えてしまってどうしたらいいかということで、相談に見える方もたくさんおられます。
 比較的ご高齢の皆さんは元気でいらっしゃいますが、やはり突然、何か感染症を起こされたり、加齢によって非常に抵抗力が落ちていますので、胃腸障害など高齢者ゆえに体調を崩されてそのまま寝込んでしまう。ちょっとしたけがが、ご高齢の方は寝込む原因になるということがよくありますので、非常に注意を要するところです。
 私は町医者、かかりつけ医です。近くにいらっしゃる方を大事にして、何かと相談相手になる。往診に自転車で出ますと、患者さんの家まで行く間に自転車を何度もとめまして、そして地域の方と話をするという生活です。車だととまらなくていいんですが、自転車だと何回もとまります。町の医者というのは、そうやって地域の人と親しんで過ごすというのが大事だと思います。このことは、若い先生方にきちっと言いたいと思っています。
 町の医者は往診や自分のところの患者さんを大事にするだけではなくて、近くの小学校の校医、町工場の産業保健医などもやっております。それから医師会活動に参加して、予防的な事業をいっぱいやって、健康増進を図るというようなことをやっています。
 そして、健康保持のための一次予防の中の一番大事な食事について、子どもさんでも、働いている人でも、ご高齢の人でも食事が一番大切だということを訴えていきたいと、いつも考えています。

○白石さん(コーディネーター)
 石原さん、知事という職にあって、食事なども不規則になると思うのですが、ご自身として、食生活の面で気をつけていることは。

○石原知事
 政治家として世の中の変化を眺めてきて、また人の子の親として、敗戦から日本がいかに再生してきたかをずっと眺めてきましたが、食ということに限っても、ものすごい変化がありました。とにかく物事が潤沢になってきた。
 この間大病をしまして、どうも胃の調子が悪いので、年に1回している断食にまた行ったんです。5日目で非常に調子がよくなった。ところが、頑張って8日間やり過ぎたら、やせ過ぎてしまった。体力はなかなか戻らないし、体重も戻らない。女房がプロテインがいいとか言うんですが、聞いてみたらプロテインはやせる方の薬らしい。それで、肉、肉と言うけれども、聞いてみると、肉ばかり食べる減量というのがあるらしいし、あまり毎日肉を食べたいとは思わない。それで思い尽きて、大学のころの合宿で、朝、炊きたての飯に卵ぶっかけて、醤油かけて混ぜて食べた。あれがおいしかったような気がして、これを3日間やったら、確実に体重が増えてきました。
 つまり、物があり過ぎて何を選択していいかわからない。親子三代で住まないものですから、子どものしつけや食べ物についても、伝統というのが全然継承されていかない。
 何をとったら正確な食生活になるのか。ぜひ先生方、きょう教えてください。

○白石さん(コーディネーター)
 女性の間でも、行き過ぎたダイエットというのが問題になっていますが、これは医学的に見て、服部さん、どういうものなんでしょうか。

○服部さん(コメンテーター)
 僕は20歳まではダイエットしてほしくないと思っています。大体18歳から20歳にぐんと骨が伸びるからです。骨密度重量が一番高くなるのが20歳です。せいぜいしても18歳ぐらいに適切なダイエットならばいいけれども、それ以前にはしてほしくない。骨が20歳までの間にきちっと完成しないんです。
 ダイエットというのは、自分の体重の5%に当たるものを1か月以内に落とすならばいいんですが、それ以上落としてはいけない。必ずリバウンドがあります。脂肪と筋肉とのバランスが崩れてくるんです。そういうことはあってはいけないなと思っています。

○白石さん(コーディネーター)
 都民の方のご発言に移りたいと思います。トップバッターは練馬区の吉田さん、いらっしゃいますか。

○吉田さん(都民)
 私は練馬区で約15年農業をやっております。去年、東京都のエコファーマーの認定をいただきました。6年前から、近所の小学校の落ち葉などを掃除して置いてあったものを、大学の馬術部からいただいた馬の堆肥の中に混ぜて、野菜をつくり始めたんです。それで、たまたまPTA会長を受けた縁で、学校給食に食材をおさめるようになりました。毎日とれたての新鮮な野菜を提供して、子どもたちにおいしかったよと言ってもらえれば、すごくいいかなということでやっていました。
 それから、平成12年度から文部科学省の子ども地域活動推進事業の中で学童体験農園をやってくれないかと頼まれました。野菜づくりのアシスタントとして何人か希望者を集めて、夏休み以降、9月から多いときでは毎週土曜日か日曜日で計11回ぐらい行いました。大根の種まきだとか間引き、収穫、それからキャベツを植えたり、いろいろやらせました。最後は、自分たちでとったもので何かおいしいものをつくろうよということで、豚汁や青菜のおにぎりをつくったりして、収穫祭を行いました。
 子どもたちが学校へ通うところに畑があるので、毎日野菜がどういうふうに育つか、虫がついていないかとか、そういう心配をしながら育てた野菜を自分で食べられることがすごくうれしいという声をいただいております。これからも小学校だけではなくて、義務教育の間だけでも、野菜の本来の味を味わってほしいなと思っております。

○白石さん(コーディネーター)
 野菜が育っていくところを見ることによって好き嫌いがなくなったというような話も聞きます。こうした身近な自然の中で農業体験ができることは、子どもたちの発達にとってもすばらしいと思うんですが、唐澤さん、いかがでしょうか。

○唐澤さん(コメンテーター)
 食を形成しているものは食材、調理、それからどこで食べるか、誰と食べるかということでして、その食材がどうやってそこにあるか子どもたちは知らないわけですね。大根が本来どういう姿をしているかということも知らないし、どういう土の中にあるかということも知らない。それをうろ抜いて子どもたちが手に取って、その重みとか柔らかさとかみずみずしさを知って、それを今度は調理なさる方が、どういう味付けで、どういうふうにおいしく食べるかということをやる。恐らく友達と食卓を囲んで、担任の先生と一緒に食べる。この流れの中に大きなものが含まれていると思います。

○白石さん(コーディネーター)
 さっき服部さんが、料理ができない子どもを育ててきた国民ということをおっしゃいましたが、こうした身近な経験をすることによって、例えば大根はこういうふうに料理するんだということを覚えてきますよね。

○服部さん(コメンテーター)
 そのとおりなんですが、その前に、日本の食糧事情を子どもに知らせていないんですよ、日本の教育というのは。自給率がカロリーベースで40%しかないんですね。食生活ががらっと変わってきた中で、外国からいろいろなものを入れるようになった。それで、先ほどの農業のお話ですけれども、ものをつくらせるだけではなくて、その次の段階を学校がやるべきだと思っているんです。
 子どもたちを小学校卒業の段階で合宿に入れ、日本で1年間で自給している量だけを食べて2日間過ごします。ご飯が1人5グラム。大根が親指の先ぐらい、じゃがいもが小指の先ぐらい、にんじんが小指の半分ぐらいにしかならないわけです。初めは楽しんでやっているんですが、昼になると真剣にやるようになるんですね、おなかがすくから。そして、夜になるとそれを味わうようになって、えっ、にんじんはこんなに甘かったんだというんです。
 今、小・中学校で野菜づくりをやらせている学校が家に持たせて帰すと、お母さんはそれを捨ててしまうらしいです。そういう家庭もあるということですから、ぜひ、世界において日本はどういう位置にいるかということをきちっと教育しながら、ご飯粒1つでも大事にしなければいけないということを教えていくべきだと思っています。

○白石さん(コーディネーター)
 この飽食の時代だからこそ、あるいは家の中で食文化がつくれないからこそ、給食の中で教えていくようなことがあると思うんですが、香川さん、いかがでしょうか。

○香川さん(コメンテーター)
 今は本当に食べるものが何でも手に入って、好きなものを食べていると偏ってしまうという状態になってしまいました。かなりの子どもたちが、まともなものは学校給食以外には食べていないというぐらいになっているんですね。学校給食で体をもたせていると言ってもいい状況になっています。
 戦後、学校給食が始まってから、14歳の男の身長が18センチ伸びているんです。これは、牛乳を中心にして、カルシウムのとり方が倍以上になったということが非常に大きいと思うんですね。それから、5歳から15歳の子どもの死亡率を見ますと、世界でも日本は下から2番目ぐらい。非常に健康です。確かに学校給食は365日ではありませんし、年間190食ぐらいですが、それが子どもを支えているという効果は大変なもので、現在でも、飽食の時代だから要らないという理屈はないどころか、あそこでようやくバランスをとっているという状況になっていると思います。
 ただ、それを子どもたちはただ与えられて食べているという状況で、自分でちゃんと選択をする力になっていないところが問題で、学校給食を離れると、とたんに悪くなるんですね。哺乳類の一種として地上に生まれた人間は、自然界の動植物を食べてきたのですが、今、それとはかなり離れたものに取り囲まれて、しかもそういうものを好きで食べてしまう。だから、自分はどういうものをどのぐらい食べればいいかということを学ばなければいけないんじゃないか。それでなければ、みんな体を壊して、滅びてしまうのではないか。
 どうにかしなければという意向は出てきましたが、じゃあ、だれが教えるか。小さいときから教えなきゃいけないし、今のお母さまは先ほどからのお話にもあるように、とても当てにしていられないんですね。ですから、子どもに直接教えるよりほかない。保育園の子どもにも教えるべきですから、保育園には全部そういうことを教えられる栄養士を配置すべきだと思います。学校給食でも、どうしてこういうものが出ているのか、どういう役割があるのかということを教えなければいけない。栄養教諭というシステムができて、子どもにどう教えるかということもきちんと身につけられるようになりましたので、少しはよくなるかなと思います。そして、中学生にしっかり勉強してもらう。十数年たてば、その中学生は親です。そういうふうにしてやり直していくよりほかないんじゃないかと思います。

○石原知事
 やはり牛乳というのは圧倒的にいいですか。

○香川さん(コメンテーター)
 日本人の健康がよくなったのは、学校給食で牛乳を飲み覚えたということが非常に大きいと思います。私ども、白人と違いまして乳糖を分解できないものですから、ちょっとおなかが崩れるんですね。それでずっと飲まなかったというか、食物の中に入っていなかったんですが、ヨーグルトだとかチーズにすれば乳糖はありませんし、牛乳をそんなにたくさんではなくていいですから、1日に1本か、多くても2本ぐらい飲んでいれば、まず骨がしっかりしてまいりますし、成長も全然違います。ビタミンB2も牛乳がなければとても足りないし、カルシウムもそうです。

○石原知事
 僕ら年寄りでも効きますかね、まだ。

○香川さん(コメンテーター)
 例えば、老人研の調査で、70歳の方々にどういう生活をしているかをいろいろな面で伺って、10年後にその方々がどうなったか調べたことがあります。元気組とダウンした方で比較をして、一番大きな差は牛乳だったそうです。

○唐澤さん(コメンテーター)
 1本に200mgぐらいカルシウムが入っている。育ち盛りだと1,000mgかそれ以上必要です。血中カルシウムが減ると、筋肉の活動が著しく低下しますね。それから、精神的に非常に不安定になる。子どもが凶暴になるのはカルシウム濃度が落ちているからだという報告があります。
 それから、人間の骨はできてそのままではなくて、いつも壊して、つくり直しているわけで、数年かかると全部骨が入れかわるということも聞いています。ですから、知事、断食されても牛乳だけは飲まれたほうがいいかもしれませんね。牛乳は、ある程度の年配になっても、日々たくさん飲んだほうがいいと思います。これは私からもおすすめしますが、服部先生、いかがですか。

○服部さん(コメンテーター)
 そのとおりです。ただ、離乳食を与えるのは6か月ぐらいからですよね。それまで6か月は母乳をあげてほしいと思うんです。ところが、今の若いお母さんは、バストの形が崩れるとか何とかいって、2か月ぐらいであげなくなるんですね。今、アレルゲンになると言われている食品の上から3つが、牛乳と卵と小麦粉なんですよ。人間の体というのは良くできていて、6か月過ぎないと、母乳以外のものはみんなアレルゲンになってしまう可能性が高いんです。ですから、牛乳はすばらしいものですが、そういうことをきちっと踏まえた上で、やはり昔のようにお乳をあげていただきたいなと思います。

○白石さん(コーディネーター)
 お二人目の方は、大田区からお越しいただいた竹見さんです。

○竹見さん(都民)
 僕は、心のこもったものを楽しみながら、また感謝しながら食することで、体を癒すことができるのではないかと思っています。
 私、今33歳ですけれども、外食産業に勤めているということもあって、3年前に糖尿病になりました。そのときのことを振り返ってみますと、自分の知識のなさで暴飲暴食をしたことと、いろいろなストレスを感じていたのか、心のあり方で体が通常のサイクルをしなくなったのかなということがあります。それから自分なりに食べるものからすべて見直しをしたし、心の持ちようとか考え方も見直していきました。
 今日本にある食材を見ていると、生命力を持った食品がすごく少ないのではないかと思うんです。日本で今流通している牛乳はそんなに体にいいものなのかなという疑問があります。というのは、その牛乳を出す牛に問題があると思うんです。広いところで自然に草を食べて、日を浴びてゆっくり過ごした牛の乳を飲めるのであれば、栄養価も高く、体にとってプラスになると言えると思うんですが、現状は、牛舎に入って、ドッグフードみたいなものを食べている。
 そういうことがあるので、今後日本の食生活を変えていくためにも、何を食べるかとか、つくられたもののヒストリーを知ることが大事になると思います。ですから、僕たち消費する側も知識を持って、食材についていろいろ研究しなければならないし、また、すばらしい食をつくってくださった方に対して感謝したいし、つくられたものが多少高くても購入して、そういった生産者を育てていくことが大切なのではないかと思っています。

○白石さん(コーディネーター)
 食の情報提供とか食の知識をどう伝えていくかというご提案だったんですが、これに関していかがでしょうか。

○石原知事
 私も質問させていただきたいんですが、都庁の議論でも、いつも遺伝子組み換えの食品をどうするかというので激しい議論になるんですね。私の友人の息子の中川昭一君が農林大臣をしているときに、遺伝子の組み換えの納豆か何かを食べてみせた。そんなもの、遺伝子を組み換えたものが有害か無害かなんて、食べてその日にわかるわけがないんだ。だから、これは遺伝子を組み換えた食べ物ですよ、これは違いますよというマークだけきちっと大きく分かりやすくつけて、あとは買う人の判断に任せようということでやっているんですが、行政ができることはこれぐらいしかないんですね。ほかに何かお知恵がありますか。

○服部さん(コメンテーター)
 冒頭に食育という話をしたんですが、その中で今言われた遺伝子組み換え、ハイブリッドの問題があります。
 どんなものを食べたら安全か危険か。そして、どれが健康になるかということを教えていくのが教育だと思うんですね。遺伝子組み換え、農薬なのか無農薬なのか、あと食品添加物、化学合成がどのくらい入っているか。このごろは表示を見ればだいぶわかるようになりましたが、その中でも何を一番避けて通らなければいけないのか。そして、農薬がいっぱいだったら、それをどうして除去できるのか。こういったことをきちっと教えるべきだと思います。
 現段階では、遺伝子組み換えはまだ危ないんですね。第3段階ぐらいの遺伝子組み換えというのがあと10年ぐらいかかるらしいんですが、そのときには、相当いろいろ整理されて出てくるはずです。

○白石さん(コーディネーター)
 先に進ませていただきたいと思います。
 千代田区の浦谷さん、お願いいたします。

○浦谷さん(都民)
 箸をつくっているメーカーの経営をしている浦谷と申します。
 私は、しつけこそ日本の最大の財産だと思っております。それは、家庭における箸の使い方の教育が原点であろうと思いながら、今の箸使いの乱れにいたたまれず、今から6年ほど前に幼児、小学生を対象に、箸で知育をしていこうということを始めて、学校や幼稚園に足を運んでいます。
 小さい子どもたちに、自分の箸を自分の手でつくらせるということを過去70回ぐらいやってきました。その中で、日本人の箸に対する思い入れのすごさを垣間見まして、ここのところのしつけをきちっとやっていけば、今、先生方がおっしゃっている食と健康の問題は全部直ってしまうのではないかという思いを強くしております。
 今、わが国では事件や犯罪、非行が日々増えていますが、ここから直さないと、私は何もかも直らないと思うんです。「いただきます」から始まるお箸のしつけ、これはわれわれの先人たち、あるいは先祖が、世界に誇るすばらしいものを残してくれたわけです。それをわれわれが伝承していかなければだめだと思います。
 一昨年から、折れた野球のバットから箸をつくるということをわれわれの会社でやらせていただく中で、野球を通じて日本の子どもたちに箸に関心を持ってもらおうということをやっています。どんどん効果が出てきています。
 もっともっとこれを広めるためには、石原知事のツルの一声がなければだめだと思います。どうかよろしくお願いしたいと思います。

○石原知事
 私よりも、今ここに、心の東京革命の会長であり、「頭の体操」で有名な多湖先生がおいでになっています。ちょっと先生、お立ちになって、先生が決めてください。

○多湖 輝 心の東京革命推進協議会(青少年育成協会)会長
 ひと頃、私が親しくしている俵萠子氏が中野区の教育委員になられまして、子どもたちに箸をぜひ使わせたいとおっしゃって、運動を始められたんです。そうしたら、全然うまくいかなかったんですね。当時組合との関係が悪い状態だったものですから、箸を子どもたちに使わせたいと思われる方でもなかなかうまくいかなかったという実態があったようです。
 私も、日本古来の伝統文化をもっと大事にするべきだと思います。私は、言葉の乱れ、服装の乱れ、それがマナーの乱れになり、やがて日本全体が乱れてくる。この辺を家庭でしっかりする、学校もしっかりする、そういうようなことを一生懸命やっているところです。そんな意味からも私は箸を使う習慣づくりには大賛成です。

○白石さん(コーディネーター)
 お箸の文化について、香川さん、いかがでしょうか。

○香川さん(コメンテーター)
 お箸というのは本当に重宝なもので、この文化を持っているのは幸せだと思います。いろいろな食べ物を食べることもできますし、箸置きをいろいろ変えることで雰囲気を変えることもできます。最近では、自分でお箸を持っていく給食も大分増えているのではないかと思います。自分の箸で愛着を持って、きちんと隅から隅まで大切に食べるということは、手の器用さにもかかってきますし、とても優雅な、よい食習慣だと思います。大切にしていきたいと思います。

○服部さん(コメンテーター)
 うちにフランスだとかイタリア、スペインから講師が来ますが、みんな箸を持つのがうまいんですよ。「今、欧米では、箸を持てなかったらエリートと言われない」と言うんですよ。日本人はエリートがいなくなりますよ。

○白石さん(コーディネーター)
 4番目の方は江東区の金森さんです。

○金森さん(都民)
 行政主導で都営のレストランをつくったらどうかということに関しまして提案させていただきます。
 私は仕事の関係で東京Xの現場ですとか東京シャモの現場に行かせていただいたんですが、すばらしい食材が、東京にはたくさん眠っているということを知ることができました。畜産試験場などは、非常にすばらしい環境で作られていました。ところが、食べる場所がないんです。ならば、東京都がつくってあげれば、全部東京都の食材で賄える。米もつくっていれば、牛乳もつくっている、肉もつくっている。行政都市として、経済都市としても東京は十分役割を果たしている上に、農業でも食材でも役割を果たせたら、こんな無敵な都市はないのではないかと思います。
 実際にやり始めようということを最近思い始めましたら、ブレーンとしてそれをやりたいと言ってくださる方もいっぱいおります。服部先生はよくご存じかと思いますが、オテル・ドゥ・ミクニの三國清三さんとかスローフード協会の小黒さんといった方も、それは非常におもしろいんじゃないかと。民間主導でやってもいいんですが、それだと意味がないのではないか。せっかく都でこんなにいい食材をつくっているのなら、都主導、行政主導でやるのがいいのではないかと思います。

○石原知事
 絶対だめ。経営感覚がないんだから、お役人なんか。また大きな赤字つくられたらかなわないよ。東京都はいろんなことで手助けはしますよ。だから、民間は民間の経営感覚でやらないと絶対儲かりっこないし、ろくなことにならない。

○白石さん(コーディネーター)
 5番目の方は、目黒区の井手口さんです。

○井手口さん(都民)
 私は目黒で美容と健康のサロンに従事しております。私のサロンは、エステとはちょっと区別しておりまして、外からお手入れをして差し上げるほかに、内面として食生活の改善、適度な運動、ストレスをためずに豊かな感性を持っていきましょうという精神面の三面から美容と健康を管理し、実践しています。
 私は、お客さまたちに大自然の恵みのもの、旬のもの、新鮮なものをバランスよくとってくださいということを言っています。バランスがとれてこそ、その人の健康を維持することができるし、低下している自然治癒力を最大限に発揮できるものと思います。
 自分がいつ、どこで、誰と、何を食べるのかということを意識して生活してこそ、真の健康が得られると思います。実際にお客さまたちには、食事日記というものを書いていただいていますが、それが大変好評です。今、ここで2日前の朝御飯に何を食べたか思い出せる方は少ないと思うんですね。自分がいつ、どこで、何を食べたのか、そういうことを管理していくこと。今、携帯が発達していますから、ちょっとメモにインプットするだけでもいいです。朝、何を食べた。じゃあ、野菜が足りないから夜は野菜をとろうかなというふうに自分自身で管理していくことで、真の健康が得られるのではないかと思います。

○白石さん(コーディネーター)
 自然治癒力と栄養の関係はどういうふうにとらえればいいんでしょうか。

○唐澤さん(コメンテーター)
 何か病気があって、自然に治すという力は、免疫力とか体の総合的な抵抗力ということだと思いますが、今のお話を伺うと、これはスローフードという趣旨だと思います。やはりここに込められた意思といいますか、愛情までこもっていればすばらしいと思うんですが、しかも調理にたっぷり時間をかけてつくって、非常にたくさんの食品が入っている。ですから、普通の家庭料理と同じような面がありますので、こういうものを気持ちよく食べるということは、早い話が、例えば悪性腫瘍細胞を殺すNK細胞がふえるとか、総合的な面で健康保持・増進、あるいは疾病予防に役立つかなと思います。
 さっきの金森さんの話もそうですね。食材とそこに出てきた食品、その2つがまさにファストフードといいますか、何のプロセスもないというのはいけない。どういう人が、どういう考えで、どういう時間をかけて、何を使って、どういう調理をしたかというプロセスをしっかりと感じ取る。一口、一口いただくときに、その食材そのものと、今ここにある料理というものの流れを理解するような、そういう内容の深い食事のとり方をこういうところでされる。そして、先ほどの箸の話ではありませんが、ものをいただくときの気持ちといいますか、そういうものを涵養する場にしていただければと思います。食道場みたいな感じでこういうものがあれば本当にすばらしい。まさに疾病予防になるかなと思いますが、どうでしょうか。

○服部さん(コメンテーター)
 今日、医師会の会長さんがお見えなので言いにくいんですけれども、病院の食事を召し上がったことがある方いらっしゃいますか。――おいしかったですか。食事には環境がすごく大事なんです。まず照明が大体蛍光灯なんですね。蛍光灯というのは、赤いものを紫に見せるんです。白熱球をいかに食事の中に取り入れるか。これによって、赤いものは赤く見えるんです。それと匂いです。病院に入ったとたんに、クレゾールの臭いがすごいじゃないですか。どんな体力のある人でも、ああいう環境に入ったら気が落ちるでしょう。気が落ちると、コルチゾールという副腎皮質ステロイドホルモンが増加して、免疫機能が下がるんです。
 いい環境というのは何かというと、いい香りを漂わせながら、見た目がきれいということ。嗅覚から脳を刺激すると、トリプトファンという必須アミノ酸が分解してできるセロトニンという脳内物質がたくさん出るんです。そうすると、よだれが出て、胃が「ギュギュギュッ」と言うんです。これをつくり上げなきゃいけないんですよ。

○白石さん(コーディネーター)
 最後に香川さん、服部さん、そして唐澤さんの順にご提言をいただいて、それを受けて、石原知事に締めくくっていただきたいと思います。

○香川さん(コメンテーター)
 先ほど井手口さんがおっしゃいました、3日間の食事をつけてみようというのは、大変いいご提案だと思います。人間は、おなかがいっぱいになれば何も考えなくなって、バランスも何もなくなります。何をどれだけ食べればいいかということを一人でも多くの方がきちんと心得て食べるようになれば、これから先の日本は病人も少なくなって、みんな寿命いっぱい、健康に幸せに暮らせると思いますので、そういう意味でも食の教育をこれからは大いにやっていただきたいと思います。私どもも頑張ります。

○服部さん(コメンテーター)
 「食」という字は「人」に「良い」と書くんですね。人に良くなければ食じゃない、人を良くするのが食なんです。私は、人を良くすることを教育しなければいけない、こんなつらい時代になってしまったかと思うんです。本来なら家庭がやるべきだったんですが、それができない。子どもの人格は8歳までに周りの人がつくってあげなきゃいけない。これが日本に今欠けていることだと思います。それには、食を通じて人間教育をすべきだと私は思っています。

○唐澤さん(コメンテーター)
 食は天地の恵みですので、これを十分感じられる食事を食卓でとる。しかも、愛情こもった調理で食べる。ということは、やはり家庭で食べるのが大事だと思います。家庭で食べるのは内食で、外で食べるのは外食だそうですが、この内食、しかも和食を中心とした食事が健康の源だと思います。バランスよく洋食と中華を混ぜるというやり方で、健康を保っていただきたいと思います。

○石原知事
 食を変えるのは、今の若いお母さんを再教育しないとだめだと思いますね。とにかく、包丁を使えないでしょう、全然。レシピの講義なんかもテレビであるんだけども、見ているだけで、ノートをとる人もいないし、せいぜいお父さん、今度この店へ連れてってという話だよ。これはやっぱり、本気になって若いお母さんをたたき直さないと子どもたちは救われないし、大げさではなしに、日本は救われません。
 今日はありがとうございました。